かつては「愛すべき選手」だった。

「ファンの（否定的な）考えはリスペクトするし、彼らにはその資格がある。それでも僕はフィールドに出なくちゃいけないし、ファンの考えとはプロセスが全然、違うんです。僕は集中して結果を残さなければならない。そうすることをファンは嫌うかも知れないけど、僕は自分のすべきことをしなければならない」

　家庭内暴力によって生まれた、ラッセルとファンとの「溝」。それを埋めるのは難しい。

　ラッセルはDVが明るみに出るまで、「愛すべき選手」として知られていた。

　実際に話してみると性格も穏やかで、私のような日本人が話しかけても、とても落ち着いた表情で受け答えする好青年だった。マイナー時代の同僚・中島が「日本で頑張っている」と教えると、最後には「彼（中島）に会うことがあれば、頑張ってねと言っておいてください」と言えるような人物なのだ。

　私が持ったようなイメージは、ファンが彼に持っていた「愛情」に似ていて、家庭内暴力によってそれは完全に崩壊したと言っていいだろう。

「彼がフィールドに立っていることが大事」

　出場停止処分は、例えば刑事事件の加害者として服役し、社会的制裁を受けることとは明確に違う。何があったにせよ、一瞬の怒りを家族に「暴力」として向けてしまったプロのアスリートに対する「偏見」が、消えてなくなることはない。

　そんなラッセルに、ジョー・マドン監督はこう言ったという。

「彼を抱きしめながら、正しい選択をして、正しいことをしていこうと伝えたよ。これからも前に進んでいこうとね。彼があれ（処分決定）以来、ずっとそうしてきたように」

　それは選手たちも同じ気持ちだった。

「彼がフィールドに立っていることが大事なんだ」とブライアントが言えば、バイエズも「誰だってミステイクはする。彼はすでに前に進んでいるし、応援するだけさ」と言い放つ。

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