炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープの20歳アドゥワ誠が頼もしい。
先発でも際立つクイックとクセ球。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2019/05/14 11:45
今季初勝利をプロ初完投で飾ったアドゥワ(左)。ヒーローインタビューでもファンを楽しませた。
クイックが独特で間合いが……。
身長196センチで手足も長い。手足が長い投手の中には自分の体をうまく操作できない選手もいる。だが、アドゥワはクイックタイム1秒1台。けん制も早く、フィールディング技術にも長けている。二軍では水本勝己監督が「ほかの投手に見本にしろ」と言っているほどの完成度だ。
素早いけん制で走者を塁上にくぎ付けにし、犠打の処理でも常に二塁送球を狙った動きを見せた。投球以外の技術が安定しているからか、走者を背負っても落ちつているように見える。
今季、走者がいないときの被打率は.217。十分低い数字だが、走者を置いた状況では.137にまでなる。さらに得点圏に進めれば、被打率1割を切るのだ(.087)。先発に転向した4月23日から登板4試合で3度のクオリティースタートを達成する安定ぶりだ。
他球団スコアラーは「クイックの間合いが独特で、打者がタイミングを取りづらい」という。それでも本人は「間合いはいろいろやっていますが、すべてサインなので」と飄々としている。
プロ入り後、打者の手元で動く球に。
チーム内の評価、他球団の警戒が高まっても、まだ高卒3年目の20歳である。本人が一番、自分の立ち位置を理解している。
「先を考えて投げられる投手ではない。1人1人を抑える気持ちで。とにかく低めに投げることを意識しています」
自分自身を過大評価しない。マウンド上で意識することは至ってシンプルで「低めに投げること」である。両サイドに投げ分けるほどの精密さはないと割り切っている。真ん中低めを狙うことで必然的に両サイドに散らばる……だからこそ、思い切り腕を振ることができるのだ。
腕を振ることで最大の持ち味である、真っすぐが動くという“癖”が良い方向に出る。松山聖陵時代まできれいなフォーシームだったが、プロ入り後に打者の手元で球が動くようになった。
長身をたたみながら振る右腕が出てくるタイミングが遅いフォームも加わり、打者を幻惑する。オフの肉体強化の成果もあり、直球の平均球速が約2キロ上がったという。
さらにブレーキの効いたチェンジアップで前後の幅を使い、精度が増したスライダーで横の幅も使えるようになった。カーブもある。「先発アドゥワ」は、昨年までの「中継ぎアドゥワ」とは違う。