炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープの20歳アドゥワ誠が頼もしい。
先発でも際立つクイックとクセ球。
posted2019/05/14 11:45
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
マウンドでも、マウンドを降りても、飄々とした立ち居振る舞いが何より頼もしい。広島を上昇気流に乗せた先発陣の一角を務める20歳、アドゥワ誠には、良い意味で若々しさが感じられない。
5月12日、DeNA打線を相手にプロ初完投で先発初勝利を手にした。9回。最後の打者を途中交代の上本崇司のナイスキャッチで打ち取っても派手なガッツポーズもなく、感情を表に出すこともなかった。
無四球完投の110球に、アドゥワの真骨頂が見えた。
立ち上がりからストライク先行のピッチングで、9回まで三者凡退は2度。ほとんどの回で走者を背負ったが、動じない。5回、伊藤光にソロを浴びても、引きずらない。
この強心臓ぶりは高卒2年目の昨季の経験が生きている。中継ぎとして一軍にフル帯同した。ロングリリーフとして劣勢の展開で、僅差でリードしていた場面でもマウンドに上がった。状況を問わず投げた53試合が、若き右腕の血肉となった。
「どこに投げたら打たれるとか、自分でも考えて投げられるようになってきている」
まだ3連打以上は浴びていない。
何よりそこで学んだことは逃げてはいけないこと、そして逃げられないことだった。
強心臓ぶりがさらに発揮されるのが、走者を置いた場面である。この日の6回、1死から宮崎敏郎、筒香嘉智に浴びた連打は実に8イニングぶりだった。今季浴びた本塁打はいずれもソロ。計31回で連打を浴びた回数はこの日を含めて4度だけ。3連打以上はまだ打たれていない。
恵まれた体格を見事に使いこなす。ナイジェリア人の父と元バレーボール選手の日本人の母を持つ。入団直後の体力測定では下半身の筋力やジャンプ力で、ほかの新人選手を圧倒した。オフの自主トレでチームメートと汗を流したサッカーでも巧みなボールコントロールを見せるなど、運動能力が高い。