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イチローが驚いた雄星の“大物ぶり”。
あの「ジャージ事件」の真相は?
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKyodo News
posted2019/04/20 17:00
練習を終え、報道陣の質問に答えるマリナーズの菊池雄星。5度の先発登板で粘りの投球を見せるも、いまだ勝ち星はなし。
イチローが驚いた菊池の“大物感”。
さて。この春、短い間ではあったが、イチローさんと菊池雄星の掛け合いには随分と楽しませてもらった。そのイチローさんが東京の引退会見で菊池へ残した言葉があった。
「いろんな選手を見てきたんですけど、左投手の先発って変わっている子が多いんですよ。本当に。天才肌が多いとも言える。アメリカでもまあ多い。でも、こんなにいい子がいるのかなって感じですよ、今日まで」
褒めているのか、そうでないのか。どちらともとれる。この流れは最後まで続いた。
「キャンプ地から日本に飛行機で移動してくるわけですけど、チームはドレスコード、服装のルールが黒のジャージセットアップでOK。長旅になるから大丈夫ということで。『雄星、おれたちどうする?』って。アリゾナを発つときはいいんだけど、日本に着いたらさすがにジャージはダメだろうってふたりで話していたんですね。『イチローさんどうしますか?』って聞いてきたんで、僕はまぁ、『中はTシャツだけどセットアップでジャケット着ようかな』と。そしたら『僕もそうしようかな』と。そう言ってたら、まさか羽田着いた時にアイツ、ジャージでしたからね(笑)。いや、こいつ大物だなって。ぶったまげました」
「完全に僕のミスです……」
菊池は憧れの大先輩との打ち合わせを反故にしたと言うことなのか。シアトルに戻り、早速に聞いてみた。すると彼は汗をかきかき、こう言った。
「それを話すと10分くらいに……。後ほどゆっくり……。完全に僕のミスです……」
ならばと、あらためて遠征地シカゴで話を聞いた。今度は頭をかきかき、「言い訳なんですけど……」と切り出し、真相を話しだした。
「最初にイチローさんと服装の話をしたのは東京への移動日の前日だったんです。僕、キャンプ地にジャケットを持っていってなくて。次の日がお昼集合だったので、午前中に買いに行けばいいと」
キャンプ地ピオリアには百貨店などない。唯一あるのは全米チェーンのディスカウントストアとして知られる「ターゲット」。メジャーリーガーにふさわしい店とは到底思えないが、彼はその中から最良と思える一枚の黒いジャケットを選び、ご満悦だった。
「60ドル(約6600円)だったんですけど、50%オフで30ドル(約3300円)だったんです。ラッキー!と思いました」
話す表情は無邪気そのもの。スーツケースの中に自らしまい込んだというが、これが最初の過ちだった。