マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
宮崎キャンプ巡りは野球の楽園。
広島の庄司、SB中村宜、オリの2人。
posted2019/02/20 17:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
広島カープの日南キャンプは、一軍が市街地に近い天福球場、二軍はそこから少々山のほうに入った東光寺球場を“会場”として行われる。
内野手・庄司隼人が、今年のキャンプは「天福」にいた。
雨上がりの日南、室内練習場のバッティングを終えて出てきたところで手を振ったら、アッ! という顔をして、ちょっと離れた場所から、ダッシュでやって来た。
「今年は来ないなあと思ってたんですよ!」
「こっちだったんだ、よかったね!」
これまでのキャンプでは、ファームの「東光寺」でばかり会っている印象だった。
彼とは、高校時代(静岡・常葉橘高)に「流しのブルペンキャッチャー」でピッチングを受けて以来の付き合いになる。
当時の「庄司隼人」はというと、打ってよし、投げてよし、守ってよし……足だけ“普通”で、あとは無類の「野球上手」で有名だった。
10年目のキャンプに母が。
取材の日、ブルペンの向こうのほうに、隠れるようにしてこちらを見つめる女性の姿があった。
「母なんです、見に来ちゃって……」
快活な物言いにちょっとだけ曇りがかかって、さすがに照れくさそうだった。
そんなお母さんだから、ドラフトの日、おめでとうございますと電話をしたら、うれしい、うれしいと電話口で1時間半泣かれてしまったのが、ついこのあいだのようだ。
「今年で10年目ですよ、一軍キャンプなんですよー!」
訴えるような語尾になった。
お母さんに伝えた? ……聞こうかと思ったが、やめておいた。
10年目の大勝負は、キャンプから始まっている。
瀬戸際の男に、母の涙はなんの助けにもならない。それは、勝負をかける男本人が誰よりもわかっているはずだ。