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ファンの「期待外れ」を覆すため、
整い始めたダルビッシュの体と心。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2019/02/03 11:30
ダルビッシュはカブスのコンベンションで地元の子どもたちと交流し、朗らかな表情を見せた。
KIDの訃報、負傷の連鎖。
もう1つはようやく、悲しみを乗り越えつつあること。
「あの時期、いろいろ重なっている中でKIDさんが亡くなられたのはすごくショックが大きかった。今でもやっぱりKIDさんのことを思い出すし、彼のお子さんとか見るとすごく悔しい気持ちにもなる」
KIDさんというのは昨年9月、41歳の若さで亡くなられた格闘家の山本“KID”徳郁さんのことだ。妻・聖子さんの実兄で、ダルビッシュにとっては義理の兄にあたる。
当時、ダルビッシュ自身も右腕の怪我と格闘している最中だった。リハビリしては痛みが再発する繰り返し。それが「筋組織に異常なし」という最初の診断に基づいて行なわれたため、「メンタルがそうさせているんじゃないか?」と自分を追い詰める。
右腕がS.O.Sを発しているにも関わらず、「ここでリハビリを止めたら、根性なしやとか言われる」とかなり無理をした。「健全な精神は健全な肉体に宿る」の真逆である。それを貫いた結果が「ストレス反応による疲労骨折の可能性あり」。そしてシーズン絶望だった。
家族がいたからこそ抜け出せた。
最悪だったのはその後、チームが宿敵ミルウォーキー・ブルワーズに最終戦終了時点で同率首位に並ばれ、「1試合のみ」の順位決定戦でも敗れてナ・リーグ中地区3連覇を逃したことだ。
その直後、ダルビッシュは「期待されてここに来たのに何の力にもなれていない。それがずっと自分の中に刺さっていた」と話している。これについては多くを語る必要がないだろう。
なぜなら、「ダルビッシュの活躍」に誰よりも期待していたのが彼自身なのだから。
野球的には、ほとんど何も良いことがなかったシーズン。そして、それに追い打ちをかけるような親族の死。しかし、そこから抜け出せたのもまた、家族の存在だった。
「自分にも自分の人生があって、守らなければならない家族、守らなければならない存在がいっぱいいる。だから、頑張んなきゃなという気持ちになっている」