野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星、10年前の涙を越えて。
「やっと行けるという気持ち」
posted2019/01/07 11:50
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
AFLO
西武からポスティングシステムを利用してのメジャー移籍を目指していた菊池雄星が、シアトル・マリナーズと契約した。日本時間の4日未明には入団会見が行われ、ほとんど英語を使っての記者会見に彼のメジャーへの熱い想いが垣間見えた。
「メジャーへの思いを改めて強くしたのはこの3年ですけど、でもやっぱり、目指してきて12年、やっと行けるという気持ちの方が強いです」
メジャーを想って12年――。
積年の希望が菊池にはある。記者会見のほとんどが英語だったのも、彼がどれほどメジャーという夢を描き続けてきたかの深さを表現した1つと言えるだろう。
とはいえ、その道程は容易いものではなかった。
やはり、思い起こすのはあの日の記者会見だ。
2009年秋、高卒でのメジャー挑戦か国内残留かが世間を騒がし、結果、国内残留を涙ながらに表明したあの会見のことだ。
人生の財産になった球団面談。
高校3年時に春夏の甲子園に出場した菊池に、日米のスカウトがこぞって注目した。最速154キロのストレートと打者の手元で鋭く曲がるスライダー。左腕からの強烈なボールで打者を圧倒していくパワーピッチングに、日米20球団が面談に訪れた。
「日本の球団はプレゼンみたいな資料を見せて話してくれた球団もあれば、手ぶらの球団もありました。どっちが良くて、どっちが悪いとかではなくてその違いを知れた。メジャーはメジャーで、現役のメジャーリーガーが花巻まで来てくれて、石川遼くんの写真を持って『彼と一緒に君も世界と戦うんだ』といってくれたり、当時レンジャーズにいたノーラン・ライアンとも話をすることもできた。日米球団との面談は人生の財産になりました」
この時の菊池の気持ちは半分くらい、いや、それ以上にメジャーに傾いていた。だが実際、夢の実現に対して想像以上の逆風があったのもまた事実だった。