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さらば王者。F・アロンソ、
三大レース制覇へ――新たなる出帆。
text by
今宮雅子Masako Imamiya
photograph byMamoru Atsuta (CHRONO GRAPHICS)
posted2018/12/29 17:00
2017年のインディ500参戦では一時トップを走った。歴史上グラハム・ヒルしか達成していない三大レース制覇はなるだろうか。
3度目、4度目の王座があると思っていた。
誰もが、2度目のタイトルの後には3度目、4度目があると信じていた。しかしその後の12シーズン、彼がタイトルを手にすることはなかった――フェラーリに行っても最速のマシンに恵まれなかったのは事実。レギュレーションが変遷し、レース現場のチームやドライバーが使える"カード"が減少していったことも要因だった。
それでも、レッドブルが圧倒的な性能を誇った'10年~'13年にも、アロンソの魔法はいくつもの勝利を生みだした。
「最高のレースを選ぶのは難しいけれど、あえてひとつだけ挙げるなら'12年のヨーロッパGPだ――あの年のバレンシアでは、予選でトップ10に入ることすらできなかった。11位スタートでは表彰台も難しいと思っていた。でもレースでは作戦を活かし、リスクを覚悟で何台もオーバーテイクしてトップまでたどり着くことができた。すごく長い道のりだった。そしてとても感動的なレースだった」
スペイン国歌が流れるなか、初めて、アロンソは表彰台で涙を流した。
「みんなが遠くから駆けつけ、クルマのなかで夜を明かしながら応援してくれたことを知っているから。僕らの国は困難な状況にある。でもラファエル・ナダルは全仏オープンで7度目の優勝を飾った。サッカーのスペイン代表はユーロを勝ち進んでいる。僕はいまこの瞬間、スポーツのおかげで母国を誇りに思うことができる」
'10年と'12年、アロンソは最終戦までタイトルを争った。選手権2位は敗北ではなく、最強のドライバーがすべてのカードを駆使し、時には平凡なカードをエースに変貌させて勝ち取った結果だ。
世界三大レースを制覇する夢。
「17シーズンを走って、僕は成功を収めたと思っている。いまはF1の外にも心を惹かれる挑戦があるから、自分が強いと感じている間に挑んでいきたい」
目標は、世界三大レースの制覇――F1のモナコGPではすでに2回の勝利を経験している。今年はトヨタとともにルマン24時間でも優勝を飾った。残るのは、'17年に1度だけ挑んだインディ500。