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あくまでF1のシートを目指して。
山本尚貴と松下信治、不屈の挑戦。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byMasahiro Owari

posted2018/12/16 11:00

あくまでF1のシートを目指して。山本尚貴と松下信治、不屈の挑戦。<Number Web> photograph by Masahiro Owari

アブダビGPのレース前、トロロッソ・チームのガレージには山本尚貴の姿があった。

「30歳だからできることも」

 だが2人はいま、F1ドライバーになるためのスタートラインに立ったばかり。乗り越えなければならないハードルはいくつも残っている。

 山本は30歳という年齢とヨーロッパで四輪未経験という実績のなさが大きな壁となるだろう。スーパーライセンスを所持していない松下は、まずはライセンス申請に必要な40点を確保するため、'19年のF2選手権で4位以上の成績を残すことが最低条件となる。

 山本も松下もその現実を直視し、こう語る。

「30歳だとか、海外の経験がないとか、ピレリ(タイヤ)の経験がないとか、いろいろ不安な要素がないとは言いませんが、逆に30歳になったからできることもある。30歳になって失ったもの、衰えたものがあるかもしれないけど、その年齢と経験があるからこそ、若いドライバーが持っていないものを手に入れたのも事実。できないことを考えるより、いまの僕にしかできないことを前向きに考えていきたい」(山本)

「1年前のいまごろ、日本に帰ることを伝えられて、精神的につらい時期もありましたが、F1ドライバーになる夢をあきらめることはできませんでした。もう一度、F2に挑戦したかったので、ベルギーGPへ行って、いろんなチームと話し合いました。今回、こうしていろんな人たちのサポートによって、再びF2に挑戦できることになったので、今度こそ結果を出して、夢に近づきたい」(松下)

 日本人が最後にF1を走ったのは、'14年アブダビGPの小林可夢偉。4年後にそのアブダビを訪れた山本と松下が、可夢偉に続くことができるかどうかはわからない。

 しかし、たとえ彼らが自分の夢を成就できなかったとしても、今回2人が見せた挑戦は日本のレース界にとって、大きな一歩となることだろう。

 それは一度エスカレーターから外れても、努力すればチャンスが再び巡ってくることを証明したからだ。山本と松下のチャレンジングスピリットには、拍手を贈りたい。

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山本尚貴
松下信治

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