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高校球児の人生が変わる秋の熊野。
全国の強豪と地元校が出会い……。

posted2018/12/05 08:00

 
高校球児の人生が変わる秋の熊野。全国の強豪と地元校が出会い……。<Number Web> photograph by Shinichi Hatanaka

豪華な設備とは言えないが、秋の熊野には高校野球の本質がずっしりと詰まっていた。

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph by

Shinichi Hatanaka

「秋の熊野」の練習試合フェスティバルは、熊野市近隣の5カ所のグラウンドを使って行われる。

 一応、メイン会場は「くまのスタジアム」ということになっているようだ。

 両翼100m、センター122mの広々としたグラウンドに、6000人以上を収容するスタンドに照明設備。三重県下最高の設備とうたわれる堂々たる球場なのだが、私には、この「秋の熊野」の原風景は、紀南高校のグラウンドをおいて他にない。

 熊野市の隣りの御浜町(みはまちょう)にある紀南高は、ひと口に言って、田舎の普通の高校である。

 7キロ以上も一直線に伸びる海岸線に沿った真っすぐな国道を、熊野市から20分ほど走って右に曲がると、静かな家並みが続く御浜の町で、その中に、紀南高校がひっそりとたたずむ。

 控えめな校門があって、ちょっとした駐車場があって、3階建ての校舎と体育館への渡り廊下。その向こうに、バックネットとグラウンドが見える。

 ネット裏にやって来れば、校庭がそのまま野球のグラウンドになっていて、両翼は100mほどもあろうか。外野には高いネットが巡らされ、その向こうはすぐ緑の山の斜面になっている。

まさに、百聞は一見にしかず。

 そんな田舎の高校(何度も失礼!)のささやかな駐車場に、創志学園と、健大高崎と、敦賀気比の野球部バスが、いっぺんに駐まっている。そんな“景色”を想像してみてください。ある意味、甲子園の横に駐まっているより、もっと胸おどる光景ではありませんか。

 頭下げて頼んだって、練習試合など叶うべくもなさそうな強豪たちと、自分たちが毎日練習しているグラウンドで試合ができる。そんな奇跡のような経験を、紀南高校の選手たちは、自分たちの野球の歴史の中に刻みつけられる。

 それこそが、「秋の熊野」のかけがえのない事実であろう。

 立派な理論を100ぺん聞くよりも、それを体現している者の“実際”を直接目の当たりにすることのほうが100倍実感できる。

 これ以上の「自己啓発」が、他にあるだろうか。

 一方で、そうした夢のような情景を、紀南高校野球部保護者の方たちが用意してくださる取れたての甘い紀州ミカンを頬張りながら観戦できる幸せが、この先何年も続くように、願わずにはいられない。

【次ページ】 甲子園でも投げた2年生が変貌。

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木下元秀
敦賀気比高校

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