マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「晩秋の甲子園」に集った才能たち。
いなべ総合の捕手、創志の第2投手。
posted2018/12/04 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
夏の甲子園予選のあとに結成された「新チーム」には、それまで実戦の舞台に登場しなかった1年生が多くデビューするのも大きな楽しみの1つになる。
「秋の熊野」にも、そんな新戦力が何人も現れた。
いなべ総合(三重)の2番を打った村木陽亮(1年・177cm80kg・右投左打)のバッティングに、まず目を奪われた。
パワフルで、しかも打ち損じの極めて少ないバッティング。2番でこのバッティングか……と驚いていたら、
「うちは、最強のバッターを2番に置いてるからね」
キャリア30年以上、ベテラン・尾崎英也監督がニヤッと笑う。
低いライナーがあっという間に一、二塁間を抜いた最初の打席はファーストストライクを、同じような痛烈打球がライトに達した第2打席は初球を、どっちもひと振り勝負の打ち損じなし。
先頭打者で打席に入った3打席目が、もっと見事だった。
ボール先行の2球目をおっつけて振り抜くと、ライナーになった打球が切れずに真っすぐレフト線に伸びる。
最初は横に追った左翼手が、途中からは打球のお尻を追いかける格好になって、100mのレフトポールまで球勢衰えることなく達したから驚いた。
3本の長短打は、いずれもサウスポーから。右半身がまったく開かずに踏み込んでいくので、ボールを真っ正面から存分にひっぱたけるというものだ。
“しくじり”は早いうちにやろう。
1年生はいい。無心で、夢中で、目の前にやって来たボールを振り抜ける。熊野の突き抜けた青空によく似合う。
でもランナーを置いた時の打球処理、とりわけスローイングには気をつけよう。
満塁で三遊間に緩く転がってきたゴロをグラブを伸ばして捕って、そこまではよかったが、そこからステップをきっちり踏み換えずに、腕の操作だけで一塁に投げようとしたから、送球が短くなった。一塁手がはじいたボールが転々とする間に、走者2人がホームを駆け抜ける。
やってしまったプレーだが、身のこなしは悪くなかった。しなやかに反応した全身の連動は、フィールディングにはもちろんのこと、バッティングにとっても大きな財産だ。
“しくじり”は誰にでもある。どうせやるなら、今のうちにやってしまえ。