酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
低反発金属バット導入は一石三鳥だ。
高校野球の金属バット問題を考える。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKo Hiroo
posted2018/11/08 08:00
現在のシステムでは、打者だけが高校からその後のステージに上がる時に苦労することになる。
筒香の出身チームで始まった新たな試み。
高反発の金属バットによって、日本の高校野球は「ガラパゴス化」が進行しているが、こういう状況下、少年野球界では独自の取り組みが始まっている。
小中学生対象の少年硬式野球も、高校野球と同じく高反発の金属バットを使用しているが、前述の筒香の出身チームである堺ビッグボーイズは、今年の10月14日と20日に木製バット同様の反発係数に調整したアメリカ製の金属バットを使用した試合を行い、報道陣に公開した。
堺ビッグボーイズはボーイズリーグに所属する少年硬式野球チームだが、このチームを運営する『NPO法人BBフューチャー』が、連盟主催の公式戦とは別個に、近隣の少年野球チームに呼び掛けて「フューチャーズリーグ」というリーグ戦を1年生、2年生、3年生と学年別に行っている。その中で、低反発金属バットを使用した試合が行われたのだ。
14日、20日ともに2年生リーグ、3年生リーグの各2試合が行われた。
打者だけでなく、投手や守備にもプラス。
14日は、リーグに所属しない硬式野球チーム「南大阪ベースボールクラブ」との対戦。試合が始まってすぐに感じたのは「打球音の鈍さ」だった。
「カキーン」という金属バット独特の金属音ではなく、「カシッ」という乾いた鈍い音がする。いい角度で上がったと見えた打球が、外野手の前でしばしばお辞儀する。2試合ともに2-0、3-0というロースコア。このクラスの少年野球では5点以上入ることが多いので、異例の投手戦、あるいは貧打線になった。
「低反発バットはアメリカで10本購入しました。高価なので中古品です。バットには『BBCOR.50』という規格名が印字されています。これは木製バットと同程度に反発係数が調整されていることを意味しています。アメリカでは、この規格以外の金属バットは使用を認められていません」
堺ビッグボーイズの阪長友仁コーチはそう話す。試合で使うのはこの日が初めてだが、選手たちは昨年夏からこのバットを使って実戦練習をしているという。
2年生の野手は「芯じゃないと飛ばない。練習では低反発バットでもいい当たりが出ていたが、試合になると難しい」と言った。
一方で投手は「安打かなと思った打球がフライやゴロになるので、思い切ってストライクを投げ込むことができた。ストレート中心で勝負できた」と言う。
打者にとっては、木製バット同様しっかり踏み込んで打たなければならないことは、将来に向けて確実にプラスだ。では投手にとって、細かな制球を気にせず、変化球も使わず、ストレートをどんどん投げることができるのは、良いことなのか? 技術的には逆行しているのではないのか? そんな疑問について、阪長コーチはこう答えてくれた。
「中学の段階でスライダーなどの変化球を多投するのは肩や肘の故障につながりやすい。ドミニカ共和国など海外の少年野球では、この年代の投手は速球主体です。変化球は上のレベルで覚えます。細かな制球力も、もっと後で身につければいい。今は速球主体でどんどんストライクを投げる方がいいんです。球数も減って、肩、肘の負担も軽くなります。
それに、低反発金属バットは守備面でもプラスです。これまでの金属バットの打球は速いので、内野手は体を固くして待って捕球しがちです。それでは、本当の守備力は身につかない。
低反発金属バットは打球が緩いので、これまで追いつけていなかった打球にも追いつくことができます。前の緩い打球も増えるため、打球へのチャージも必要になりますから、素早い持ち替えで送球を行う機会も増えます。これは、選手たちが将来活躍するために必要な柔らかいグラブさばきにも通じています」