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菊池雄星がSBに打たれる理由とは。
キーワードは「カットボール」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/10/18 11:40
エース菊池雄星で初戦を落とした西武ライオンズ。2度目の先発もありそうだが果たして。
2つの球種をまとめて考える。
この日、菊池対策に抜擢された西田哲朗が面白い話をしている。
西田は今季、楽天からソフトバンクに移籍してきた。菊池とは同期入団でファーム時代からそのボールをよく見てきた打者だ。「自分が雄星にどんな対策をしたかは言いたくないんですけど……」と前置きした上で、こう答えた。
「ストレートを意識しながらのスライダーではなく、2つの球種を“ほとんどストレート”とひと括りにしています。スライダーというより、限りなくフォークに近いカットボールという印象です。
ただカットボールといっても、待つのはストレートのタイミングで、ちょっと変化する。まっすぐを意識しながら待って、フォークボールに近い形のカットボールですから、コースが甘ければバットにあたる。そういう球やと思っています。必ず打てるわけではないですが、そのアプローチをしていけば、打てる打席もある。当然、打てない打席のほうが多いいいピッチャーであるのは間違いないんですけど、今日はチームとして意識できていたので、結果が出たのかなと思います」
つまりソフトバンク打線は、菊池のスライダーは「曲がる」という意識を強く持っていない。ほぼストレートのタイミングで持っていき、球速の変化に対応する。カウントが打者有利なら狙いやすくなるし、カットボールが甘くなれば、ストレートよりはスピードが緩むので合わせやすいというわけだ。
引っ張り巧者の右打者たち。
炭谷によれば、ソフトバンクの左打者はみな技術が高い一方、右打者は引っ張るのがうまい選手ばかりだという。
引っ張ることを意識した打者からすれば、菊池が投じるインコースのストレートとスライダー(カットボール)は、いわば、内側に入って来る球種だ。西田がいうように、2つの球種を一括りにしてしまえば、甘いコースに来れば当てることは可能になる。
また、その1点にだけ集中すれば、見極めも可能だ。インコース低めをヒットにするのは難しいので、その球を捨てれば変化しても振ることもないからだ。
この日の川島のタイムリー。そして、右打ちの名人でありながら、昨年菊池から2本のホームランを引っ張ってスタンドの上段まで運んだ内川の打球を思い出すとソフトバンク打線の共通認識が見える。
ソフトバンクが菊池に強いのは、菊池側の苦手意識があるからではない。
“菊池=カットボール”という認識を共有しているからだった。