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村田諒太、防衛戦へ「ナチュラル」。
ラスベガスの喧騒と本人の静謐さ。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshio Ninomiya
posted2018/10/19 16:00
村田諒太の表情は澄んでいた。場所がどこでも、相手が誰でも、ボクシングはボクシングだ。
自然体というより無の境地。
ナチュラル。
自然体というよりは、無の境地に近いような感じがする。
ブラントには敵対心を抱いていた“はず”だった。試合が決定した当初、チャンピオンに対するリスペクトを欠く交渉や言動があったことが村田の耳にも届いていたからだ。
8月末に実施したインタビューでも彼はこう語っている。
「ちょっと感情的になっている自分がいるんですよね。なめんなよ、というか。ボクシングって、やっぱりお互いにリスペクトする気持ちって大事じゃないですか。交渉の場にあっても失礼なことがあってはならないというのが個人的にはあるし、それが少し欠けていたんじゃないかな、と」
その感情の行き先は、どうなったのか?
集まった日本のメディアから質問が飛ぶと、村田はハッと気づいたように目を見開いた。
「忘れていましたね。あのときは“なんだ、それ”っていうぐらい。練習に入る段階では何とも思っていなかったので。むしろ指名挑戦者と試合ができることに対してうれしく思っていて、そっちの(感情の)ほうが勝っていたんでね。そこのモチベーションのほうが高い。
指名挑戦者に勝てばそれなりに僕も言う権利ができるだろうし、チャンピオンの地位が確立されると思うので。そういった意味で楽しみですね」
視線の先には相手よりも己がいる。
敵対心よりも功名心。
指名挑戦者にはっきりとした形で勝利できれば、ラスベガスで認められれば、ビッグマッチが近づく。試合はブラントしか見ていないが、志(こころざし)はブラントを見ていない。
つまりは相手を見るのではなく、己を見て、研ぎ澄ませていけばいい。
「試合(ブラント戦)だからと言って何か特別なことをするのかと言ったらそうではなくて、結局練習でやってきたことしか出ないので。そのままリングに上がればいいかなとは思いますね」
ブラントはスピードがあり、うるさいほどに手数が多いタイプ。その相手に対し、ガードを固めてプレッシャーをかけ、磨いてきたジャブから強烈な右を見舞うのみ。ショートレンジの攻防にも自信を深めており、邪念も迷いもない。