球道雑記BACK NUMBER
2501打席ホームランなしで引退。
岡田幸文が試合に出続けられた理由。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/10/15 10:00
守備の人のイメージが強い岡田幸文だが、2010年の日本シリーズでは第7戦の延長12回に決勝タイムリー三塁打を放った。
ホームランより足を活かしたい。
プロ入りから10年間、2501回打席に立って、本塁打はついにゼロのままだった。
不名誉な記録か、むしろ名誉とするかは人の価値観にもよるだろう。
この数字はプロ野球記録になったわけだが、この件について岡田に質問をすると彼はこんな言葉を返した。
「こんなに打席に立たせてもらったわけですから、チャンスはありましたよね。ただ、『ホームランを打ちたかったですか?』って問われると、僕は違うと思う。それは塁に出て、僕の持ち味である足を活かすのを常に意識してきたからであって。正直、狙っていなかったからです。何でもいいからとにかく塁に出たい……ただそれだけ。今でもそう思う」
プロ10年間、守り続けてきた矜持をこう語った。
岡田は2008年の育成ドラフト6位で千葉ロッテに入団した。
この年、千葉ロッテに入った育成選手は全部で8名。
高卒が5名、独立リーグ出身者が2名で、岡田は唯一の社会人クラブ(全足利クラブ)出身者で、年齢も最年長だった。
「自分には他の(育成)選手と比べて時間がない。1日でも早く支配下登録されるようどんなことでもアピールしたいと思っています」
育成選手時代、彼は事あるごとにそう口にしていた。
代田コーチからのアドバイス。
プロ最初の目標である支配下選手登録を目指して。練習量はもちろん、誰よりも早く守備位置につき、誰よりも大きな声を出して首脳陣へのアピールを心がけた。そうした姿は他の育成選手の模範にもなり、入団わずか4カ月で支配下登録されたのも必然といえた。
そんな岡田に、当時二軍の外野守備走塁コーチだった代田建紀はこう諭した。
「プロはたった1つの武器を持っていれば食べていけるんだよ」
代田自身も、俊足を生かした守備と走塁で10シーズン、生存競争が厳しいプロ野球の世界に身をおいた。
通算出場試合数は191、打席に立ったのは試合数よりも少ない131しかない。そんな代田の言葉だからこそ岡田も耳を傾け、強い感銘を受けた。そして自身の方向性を定めた瞬間でもあった。