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杉田とダニエル、そして西岡良仁も。
日本男子がツアー優勝続きの理由。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2018/10/05 07:00
大ケガを乗り越えてATP優勝を飾った西岡良仁。テニス日本男子勢の奮闘ぶりは非常にポジティブなものだ。
伊達公子のときもそうだった。
'90年代半ばに伊達公子が引っ張った日本女子がそうだったように、その後のロシア、中国にも同じことが起こったように、1つの国から続々と選手が出てくる現象は過去にも多々あった。身近な選手のツアー優勝やトップ選手への仲間入りに、「あの人ができるなら私もできる」という自信やライバル心が芽生えて起爆剤になるのだと言われる。
ただ、それだけでは不十分なのではないか。身近な選手の成功から得るエネルギーがあるとしたら、「努力は必ず報われる」という確信、そしてそれを目の当たりにした喜びだろう。
杉田はプロ入りからツアー優勝まで11年も費やした。グランドスラムの本戦で初めてプレーするまで17回も予選で負け続けた。その長い時間の辛さ苦しさ、それでも腐らずあきらめず目標を持って進み続けたプロセスを、西岡は断片的にでも見ていたに違いない。
自分と同じように小柄で非力な杉田が、世界に通用する自分の武器を信じて磨き続けた信念を、どこかで共有していたに違いない。
今年の180cm未満の優勝者は6人。
一方、191cmのダニエルは西岡よりも体格的に分がある上、クレー仕込みのベースラインプレーは決して西岡と同類ではないが、1ポイントを得るのに時間とショット数を費やすという点、ミスなく粘り強く打ち返すという点では共通している。
西岡よりもむしろ泥臭いプレーでポイントを重ね、ゲームを重ねて優勝トロフィーをつかんだ、当時114位のダニエルの快挙もまた、西岡を奮い立たせたことだろう。
そして、170cmというツアー“最短身”の体格ながら、フットワークとスピード、左利き特有の回転を武器に、コントロール良く、ミスなく、ショットを繰り出す根気強いプレーを貫き、新たな“証明”を作り上げてみせた。
これで、日本は現役選手の中に4人のツアータイトル・ホルダーを擁することになった。数だけ見れば上には上がいるし、特筆することではないかもしれない。
しかし、注目したいのはその「意外性」だ。何しろ、11個のツアータイトルを持つ錦織圭も178cm、75kgの小柄な体格で、アジア男子の記録を颯爽と塗り替えてきたのだ。昨年と今年の優勝者の中に身長が180cmに満たない選手は6人しかおらず、錦織は残念ながら昨年からタイトルがないが、西岡と杉田がその6人の中に入る。