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西武・松井稼頭央の引退と気配り。
うれし涙は日本一までとっておく。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKyodo News
posted2018/10/05 08:00
10年ぶりのリーグ優勝を決めた9月30日の日本ハム戦後には、チームメイトに胴上げをされた。
金子、源田らとも親交を深めた。
同時に、周囲に気を配る人だった。
自主トレーニングでは例年、とことん自分を追いつめるため、練習が長時間に及ぶ。今年1月、松井の西武復帰を伝えようと多くの報道陣が自主トレーニング現場に集まった。
昼過ぎ頃、広報担当から「先に報道陣の前でお話をします」と伝えられた。新聞社やテレビ局の締め切りを考慮してのことだろう。
「あれも実は、松井さんからの提案だったんです」と後日、広報担当が明かしてくれた。年齢や立場にとらわれず、金子、源田壮亮ら20代の選手とも親交を深め、球団スタッフ、裏方、我々報道陣にまで気を配る人だった。
松井の人間性に心惹かれた者が自然と彼の周囲に集まった。
日米通算2000本安打を記録し、ベースボールの本場アメリカでも優勝を経験。生まれながらのスターのように見えるが、“野手”としてはプロ入り後、ゼロからスタートをした。野球が好きだという思いだけで突っ走ってきたと松井は振り返る。
「西武には投手で入って、そのあと野手に転向して、だから常に練習をしていたし、常にチャレンジをしていた記憶しかありません」
1年でも長く稼頭央さんと……。
投手からショートへのコンバートのみならず、スイッチヒッターにも転向した。「ほかのこと考える時間はなくて、野球のことだけ考えてきた現役生活だった」と語る。
「西武でも、アメリカでも、そして日本球界に復帰したあとも『野球が好きだ』という気持ちは全く変わりませんでした。大好きな野球をいつまでも若い選手たちとプレーしていきたいです」
開幕前にはそう語っていたが9月、二軍に降格した際に「いよいよそのときが来た」と引退を決意したという。
3年前から一緒に自主トレーニングを行ってきた金子は言った。
「引退すると聞いたときは本当に寂しかったです。1年でも2年でも長く稼頭央さんと一緒に野球をしたかった。でも稼頭央さんが決めたことですから……。僕らは何としても日本一になって、花道を作って稼頭央さんを送り出したいです」