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ローマ新スタジアム建築計画で汚職。
2000年超の魔都ゆえの厄介さとは。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2018/10/03 11:00
ローマにとって長年の聖地オリンピコ。本拠地移転が果たされるはずだったが、今季もまた使用されている。
中央政府よりも自決主義の伝統。
イタリアのサッカーは、自治体と切っても切り離せない関係にある。
つい忘れがちになるけれど、悠久の歴史を誇るといっても“イタリア”という統一国家は成立してからまだ160年弱しか経っていない。
だが“ローマ”の都には2000年超の覇権の歴史が息づいている。
近代国家による中央政府よりも、身近にある自治・自決主義の伝統意識の方が強い。そして、それはローマという一都市に限らない。
だから、スタジアム建設というスポーツ文化や雇用、環境や交通、保安といった複数の産業が関わる大型事業ともなれば、市と県、州の行政機関と議会がそれぞれ計画書に目を通し、推進派も反対派もあらゆる立場の人間が口を出さずにいられない。
ときどき、こちらが1年単位で捉えている時間感覚を彼らは100年で考えているんじゃないか、と真剣に思うことがある。
ローマ市役所に勤める職員たちは、西暦80年に完成したコロッセオや再建されてから1900年近いパンテオンを毎日の通勤時に眺めている。彼らにとってはサッカースタジアムの建設計画の審査に5年かかろうが10年かかろうが、大した違いはないんだろう。
非合法でコンサル料10万ユーロ?
南イタリアで成功するためには物事を迅速に進めるためにトップダウンが手っ取り早い。自治体の首長と良好な関係を築くことは彼の地での必須条件だ。
だから、'16年初夏のローマ市長選にポピュリスト政党「五つ星運動」から出馬して勝利したラッジ女史の後見人役でもあり、中央政界にも顔が利くランザローネは、野心に取り憑かれたパルナージ社長にとってうってつけの人材だった。
彼は本来民間事業であるASローマのスタジアム建設を公共工事に絡めて、各自治体の反対派勢力を懐柔し、許認可発行に導いた。永遠の都は権謀術数渦巻く魔都でもある。ランザローネがやったのは誰にでもできる仕事ではなかった。
検察の捜査や自供内容などから推察するに、ランザローネ容疑者がいなければ、昨年春の時点で建設計画は反対派から潰されていた可能性も多分にあった。彼は“コンサルタント料”として10万ユーロを非合法に懐に入れたとされている。
もし、弁護士資格も持つランザローネ容疑者が適正に請求書と領収書を発行し、正しく税金を納めていたら。いや、検察の捜査があと3年遅かったら。
ローマ市内に何十万人といるはずのロマニスタたちは恨めしく思っていないだろうか。そうしたら今頃は建設予定地で何台ものブルドーザーがけたたましいエンジン音を立てていたはずだったのに、と。