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ローマ新スタジアム建築計画で汚職。
2000年超の魔都ゆえの厄介さとは。
posted2018/10/03 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
出勤したらタイムカードを押す。そこまでは日本もイタリアも同じだ。
昔、筆者は縁あって、南イタリアのある市役所で1年半ほど働いたことがある。
同僚たちは皆、大らかだった。毎朝、職場に顔は出すが自分の机には向かわず、同僚や知り合いを見つけては「ちょっとバールでコーヒーでも一杯」「すぐ戻るから」と外へ出ていったが最後、数時間戻らないのが日常の風景だった。彼らは就業時間中に自宅へ帰ったり、個人的な用事に勤しんだりしていた。
町を離れて数年経った頃、その懐かしい市役所の名を耳にしたと思ったら、あまりの職務怠慢ぶりに職員たちが業務上詐欺罪で何十人も逮捕されたニュースだった。
南イタリアで仕事をするなら、スケジュール通りにコトが運ぶなどとは、ゆめゆめ思ってはならない。
本拠地建設計画が一大汚職事件に。
ASローマの新スタジアム建設計画が凍結されている。
あれ、確かとっくの昔にこけら落とししているはずじゃ……と気づいた読者は鋭い。最初の計画では、新スタジアムは2016-17年シーズン開幕に合わせて稼働していたはずだった。
計画の中核を担う建設会社「エウルノバ」のパルナージ社長とその部下ら6人が、ローマ地方検察から贈賄の疑いで逮捕されたのはロシアW杯開幕の前日、6月13日のことだ。
他にローマ市議会議員やラツィオ州議会副議長が自宅軟禁となり、行政関係者総勢10人が取調べを受けた。
41歳のパルナージ社長から“Mr.ウルフ”の暗号名で呼ばれていたランザローネという容疑者は、ローマ市役所の行政顧問役として市やラツィオ州の議会工作に暗躍したとされる。
ランザローネの人脈が現連立政権を担うポピュリスト政党「五つ星運動」の中枢に近く、パルナージ社長が「(与野党問わず)あらゆる政治家にカネをばらまいた」と自供したことから、贈収賄疑惑は一気に拡大。これを政権批判に利用しようとする野党の政争の種にもなった。
ASローマは贈収賄疑惑とは完全に無関係であると声明を出し、検察側もこれを追認したが、建設計画がペンディング状態にあることは間違いない。
ローマのスタジアム建設計画は、政界を巻き込む一大汚職事件へと発展しているのだ。