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矢野貴章が監督交代の日に訴えた事。
ようやく上向いた新潟と自責の念。
text by
大中祐二Yuji Onaka
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/09/22 17:00
矢野貴章は決して口数が多いタイプではない。その彼が問いかけたからこそ、他の選手たちにも熱が届いたのだろう。
育てることと勝つことの順番。
J1に戻るためだけでなく、再び定着する力を付けるためのスクラップ&ビルドに伴う痛みだと思っていた。
今年1月の就任会見で、「1つは私自身がぶれないこと。“結果が出ない”とまた違うことを考えるのではなく、そこに信念を持ってやり続けることが大事だと思っています」と話した鈴木監督の指導法が有効なのは、速効性ではなく、遅効性にあることは、程なく明らかになったからだ。
育てることと勝つことは、並立しなかった。そこには順番があった。1年でのJ1昇格が強く求められる以上、育てながら勝つのではなく、勝ちながら育てなければならなかったのだ。
解任が、いかに急だったか。契約解除となる前日、つまり大敗した大分戦翌日にリカバリーが行われた練習場で、次の栃木SC戦に向けてどう修正するか、鈴木監督がMF小川佳純と話し込んでいたことからもうかがえる。小川は移籍した磯村亮太に代わり、キャプテンに就いたばかりだった。
GK大谷幸輝が吐露した惨状。
鈴木監督が目指したサッカー、その落とし込み方と浸透の程度は、この物語の主題ではない。ただし、最終的にピッチ内がいかに混乱していたかは押さえておく必要がある。鈴木監督の下でのラストマッチとなった大分戦でゴールを守ったGK大谷幸輝の言葉から、それはうかがえる。
昨年の正GKだった大谷は、今年は新加入で元セレソンのアレックス・ムラーリャの控えに回っていた。4失点を喫した大分戦は、リーグでは20試合ぶりの出場だった。
「チームとして、うまく守れていないのは明らかでした。全体がズルズル下がって選手同士の距離も遠く、どこに向かって声を出していいか分からないくらいバランスが悪かった。落ち着かせることもできないし、ゴール前で人に付けと言いたくても、目の前にフリーの選手が何人もいたら難しい。やっぱり全体で守らないと」