マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
新聞で見つけたある高校球児の談話。
甲子園のヒーローとは別の「凄さ」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/08/28 16:30
甲子園のヒーローたちだけが高校野球の主役ではない。その隅々に球児たちの人生があるのだ。
この夏2試合で7打数6安打。
談話を読むだけで、記者たちに囲まれて試合を振り返る角井亮太主将の姿が、私には見えたように思った。
182cm85kg。
均整のとれたユニフォーム姿を汗びっしょりにさせ、問いかける者の目を見据えながら、ひとこと、ひとこと、語尾までしっかりと。
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この試合、角井亮太選手はショートを守って4番を打ち、3打数3安打4打点、二塁打を1本放っている。
さらに、4日前の1回戦でも、4番・遊撃で4打数3安打1打点の三塁打が1本。
打線の主軸の働きは十分に全うしている。
もし自分が「角井亮太」だったら、もっと胸を張った話になったろうし、一方で、きっとやり場のない無念さを記者たちにぶつけるような“恥ずかしい場”にしてしまっていただろう。
実際、数十年前に最後の夏に敗れたとき、私はゲームセットの整列に並んだ目の前の“敵”に飛びかかってやろう、と本気で思っていた。
お前らのせいで負けたんだ……。自分たちの力不足による敗戦を、相手チームのせいにするような、情けない球児だった。
会ったこともない球児の語りに惹かれる。
「結果は仕方ない」
談話の最後のひとことから、持てる力をすべて発揮してなお力及ばず……すべてやりきった満足感と、潔くその場から退いていこうとする爽快感が、私の胸に届いていた。
生駒高・角井亮太主将、今ごろ彼はどのような夏休みを送っているのか。
見たことも、会ったこともないひとりの高校球児。
「角井」の名字が、「かどい」なのか、「かくい」なのか、それとも「すみい」なのか。それすら、わからない。
新聞の片隅のわずか100文字ほどの“語り”に、これほどまでに惹かれる理由は、いったいなんだろう。