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浦和・岩波拓也はポドルスキ公認。
靴職人の父と水風船がパスの原点。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byAFLO
posted2018/08/25 17:30
同じリオ世代の遠藤航が抜け、チャンスが巡ってきた岩波拓也。浦和サポーターの熱い期待に応えたい。
父はインハイに出場した靴職人。
浦和で信頼をつかんだ強くて正確なパスは、一朝一夕で身に付けたものではない。原点は神戸の小学生時代にある。サッカーでインターハイ出場経験を持つ、父・幸二さんにキックの基礎からみっちり叩き込まれた。しみじみと昔を振り返る言葉には実感がこもる。
「他のどの家庭よりも厳しかったと思うけど、すごく感謝している」
靴職人の父は当時、仕事中からキックの特訓メニューを考え、夕方の17時半頃には帰宅。すぐにトレーニングを開始できるように、「スパイクを履いて、ボールを持って待っとけ」と息子に伝えていた。一時期、岩波が野球に興味を示したこともあり、バットを持って立っていたこともあったが、父親の鋭い目を見た瞬間、手からバットを放したという。
近所の公園では、工夫に富んだ練習をこなした。大きな木の枝に水風船をいくつもぶらさげ、キックで狙わせるのもその1つ。
「(水風船を)割るまで帰られへんぞ!」
厳しい声が飛ぶなか、岩波少年は必死でボールを蹴り続けた。天気が崩れると、喜んだ。休みになるからではない。雨の水を吸ったボールは重たくなるので、水風船が割れやすくなるからだ。
転びながらでも蹴れるように。
「右足でどんな形でも蹴れるようにした。たとえ、転びながらでもね」
熱心な父の思いが、いまの岩波の右足には宿っている。
幼い頃から磨き続けてきたキックは、Jリーグのセンターバックでも指折りと言っていいだろう。付加価値は高い。ただ、守備の要となるポジションは「そこで評価されるわけではない」。本人が一番自覚している。
移籍1年目の今季、前半戦は苦しんだ。リーグ戦の先発はわずか3試合のみ。遠藤、槙野、マウリシオの3バックに割って入ることができず、ベンチを温める日々が続いた。
それでも「ポジションを奪ってやる」とひたむきに練習に励み、先輩たちのプレーを見て多くを学んだ。阿部勇樹のラインコントロール、槙野の激しく力強いマーク、どれも参考になった。