野ボール横丁BACK NUMBER
吉田輝星はストレートだけじゃない。
横浜を倒した駆け引きと変化球。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/08/17 17:00
打者が目立つ大会の中で、唯一無二の存在感を放つ吉田輝星。ストレートだけではないこの投手、底が知れない。
打者の裏をかく変化球もお手の物。
ギアを「サード」に入れたときの注意点もこう話していた。
「速い球を投げようとすると、どうしても上半身に力が入るので、それ以上に力強く下半身を使うことを心がけています」
また、こんな芸当も見せた。股関節の痛みがもっともひどかった5回は、キャッチボールのように力を抜いたフォームでストレートを投げる。それが相手の意表をつき、空振り三振に切って取った。
「普通のスローボールです。変なボールになっちゃいましたね」
8回裏、劇的な逆転3ランで5-4と試合をひっくり返したあとに上がった最終回のマウンドでは、初球に渾身のストレートを見せたあと、2人続けて変化球で空振り三振に仕留めた。
「この展開なら、向こうもスピードボールでくると考えていると思ったので、その裏をかきました」
「秘められた力を仲間が引き出した」
そして最後の打者を迎えたときには、3段階のさらに上の「ギア」を経験した。4球目、甲子園で初めて自己最速タイとなる150キロをマーク。3人目は決め球もストレートで、3者連続空振り三振で締めた。
「こういう苦しい試合は甲子園でしかしたことがない。秘められた力を仲間が引き出してくれました」
吉田はここまでの3試合を1人で投げている。誰よりも吉田は自分の体を理解しているはずだ。
「このハンディは埋まらない。調子にもよりますが、次の試合は、自由自在なピッチングをしたい」
まだ、引き出しはある。