野ボール横丁BACK NUMBER
完敗こそすれ、全力投球の充実感アリ。
沖学園・石橋幹、1イニング分の成長。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2018/08/13 15:00
4回、大阪桐蔭の藤原が左中間に適時二塁打を放った瞬間……。
「裏をかかれたと言えば、かかれた」
試合前、鬼塚監督に優勝候補の大阪桐蔭に優っているところはどこかと問うと、こう答えた。
「図太さです。大阪桐蔭だからといって、選手たちは緊張はしてない。ワクワクしていると思いますよ」
そのワクワク感を体全体で表現していたのが石橋だった。
1回、2回と、1つずつ四球を出したが、課題だった3回までをノーヒットに抑える好投を見せた。
「緊張感はあったんですけど、1球ごと、声援も聞こえて、自分を奮い立たせてくれました。投げさせてくれた監督のぶんまで投げようと思いました」
大阪桐蔭の西谷浩一監督は、石橋についてこう語った。
「ブルペンで投げているくらいの映像しかなくて。裏をかかれたと言えば、裏をかかれましたね」
3回まで試合をつくった石橋だが、4回、藤原に同点タイムリーを打たれ、なおも1アウト二、三塁から高めに抜ける暴投で2点目を献上する。
「大阪桐蔭相手にピンチだったので、気持ちが高ぶり過ぎました……」
鬼塚監督は「燃料切れでしたね」と交代を決断。しかし、大阪桐蔭の勢いは止まらない。5回から登板した斉藤は8回まで毎回得点を許し、沖学園は4-10で敗れた。
監督の読みを越えた元エースの成長。
終わってみれば、最初の3回が、試合が壊れてしまうのをすんでの所で食い止めた。
3回持てばいいと言われた元エースは、1イニングぶん、監督の読みを外した。石橋は充実感をにじませて言った。
「甲子園という大舞台が自分を変えてくれた。気持ちが前に出るようになりました」
その言葉を鬼塚監督に伝えると、目を細め、「そんな偉そうなこと、言ってましたか」と冗談めかせて言った。