野ボール横丁BACK NUMBER
明石商・田渕翔は笑って夏を終えた。
「僕が泣いても仕方ないんで」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2018/08/11 16:30
泥と涙という物語を拒絶するように笑いながら、明石商・田渕翔は自分のスタイルで甲子園で力を発揮しきったのだ。
「あいつだけですよ。いつも笑ってるのは」
明石商は、いったんは八戸学園光星の2本塁打を含む長打攻勢に飲み込まれかけたが、最後まで自分たちの野球を貫いた。全部で13安打を放ったが、すべてシングルヒット。そこに足やバントをからめ、前半、ワンサイドゲームになりかけた試合を土壇場で土俵中央まで押し戻した。
野球は打つだけではない――。
その真ん中にいたのが2安打、2打点、3四死球の活躍を見せた田渕だった。
狭間善徳監督に田渕のことを「明石商の象徴のような選手ですね」と振ると、苦笑しながら、こう否定した。
「あいつだけですよ。僕が教えた選手の中で、いつも笑ってるのは。僕のスタイルの中には、そんな野球はありません。でも、それでいながら打ちますからね」
自慢の息子を褒められ、照れる父親のような顔になっていた。