野球善哉BACK NUMBER
高岡商のエースは1人ではなかった。
交代を告げられ「大島に託そう」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/08/07 15:45
8回からマウンドに上がった高岡商の大島嵩輝はただの2番手ではない。「エースを支える男」なのだ。
「こういう采配ができるのは大島のおかげ」
投手戦で推移したこの試合は、高岡商の7番・井林泰雅が5回裏にバックスクリーン左に放り込んで1点を先制したが、次の6回表、2死一、二塁のピンチでセンター前ヒットを浴びた山田がカバーリングに回った際に足をつった。
5分間の中断の後、マウンドに戻った山田はこの回を抑えたものの、7回表に1失点。その裏の攻撃で代打を送られた。しかし7回裏の攻撃で高岡商が3点を勝ち越し、その後を受けたのが右サイドスローの大島だった。
山田は言う。
「7回を抑えてベンチに戻ってきたら、監督から交代だと言われました。そう言われた時に、大島にすべて託そうと思って声をかけました」
交代に躊躇はなかったと吉田監督はいう。
「1点リードで山田の足がつって、展開としては交代時期が難しいなと思ったんですけど、キャッチャーにきくと、(山田は)まだ行けるということでしたので、逆転されるまで我慢しようと思っていました。山田が7回までよく踏ん張ってくれました。しかし、こういう采配ができるのは後ろに大島がいるおかげです」
どんなエースにもアクシデントは起こる。
プロに注目されるような投手を抱えると、どうしてもその1人に頼りがちになる。それがエースの登板過多を招くことに繋がっても、である。
しかし、この日の高岡商・山田がそうであったように、いつ、どんなアクシデントが起こるかは誰にも予想できない。常にその想定をしてチーム作りをすることは、育成年代を預かる人間が果たすべき役目であろう。
佐賀商のエース・木村は、県大会からほぼ1人で投げてきた。
この日は9回に代打を送られたとはいえ、エース兼主将でもある彼には責任が重くのしかかっていたに違いない。「完投するつもりでいた」木村は、1人で戦うことの苦労は口にしなかったものの、後ろに投手がいて常に全力投球ができるのとそうでないのとでは、心の持ちようは大きく異なったはずだ。