フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
25歳での急逝にフィギュア界が衝撃。
カザフの星、デニス・テンの思い出。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2018/07/20 11:45
2人の恩師、エレナ・ブイアノワ(左)とタチアナ・タラソワと共に写るデニス・テン。
羽生結弦の逆鱗に触れたこと。
だが日本の一般のファンにとって、テンの名前が一躍有名になったのは、残念ながら良いニュースを通してではなかった。
2016年ボストン世界選手権の公式練習中、テンが繰り返し羽生結弦の進路に侵入して妨害したことが報道されたのだ。
当時テンは怪我から回復したばかり。一方羽生も故障を抱えて、どちらも体力的にも精神的にも極度に追い込まれ、余裕のない状況であった。
公式練習の羽生の曲かけの最中に、羽生のステップシークエンスの進路の真ん中でスピンをしていたことで、テンは激怒した羽生に怒鳴りつけられる、という事態が起きると、一部の暴走したファンからテンのソーシャルメディアに嫌がらせの書き込みが殺到するという騒ぎとなった。
羽生は感情的になったことを謝罪し和解。
この一件の翌日、一夜にしてげっそりとやつれ、まるで半分の大きさに縮んでしまったかのようなテンとプレスルームで行きあった。
「全ての日本人が、嫌がらせの書き込みをするような人間ではないことをわかって欲しい」と謝罪すると、テンは「大丈夫だよ」と弱々しいながらも笑顔を見せた。
このとき一緒にいたテンの母親が、私ともう1人の日本人ライターに「一緒に写真を撮らせてもらえないか」と頼んできて、快諾した。あの日のテン親子は、全ての日本人を敵に回してしまったような思いを抱えていたのだろう。
大会中に羽生は、感情的になったことを謝罪し2人は和解。
だが一部の日本のファンの間では、テンに対するネガティブな印象が残ってしまったことは否めない。彼の妨害が故意だったのかどうか、真実を知っているのは今となっては神仏のみだ。当時激怒したファンたちも、どうか許してあげて欲しいと思う。