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39歳武田久はなぜ引退しなかった?
日本通運で臨む都市対抗で優勝を!
posted2018/07/14 11:30
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Ryotaro Nagata
その日は朝から太陽が燦燦と照り付けて蒸し暑い1日だった。
「暑い中、お待たせしちゃってすみませんね! 取材こちらでも大丈夫ですか?」
浅黒く日焼けしたその人は、練習場のファールグラウンド付近に設置されたテントの方を指差して、インタビューの場所に指定した。
身長は170cm。
身体こそ小柄だが、生存競争が厳しいとされるプロの世界で最優秀中継ぎ投手を1回、最多セーブ投手を3回。その絶対的な信頼感と存在感は誰よりも大きかった。
武田久、39歳。
この秋「不惑の40代」を迎える彼は、それまでの輝かしい実績をかなぐり捨てて、今、新たな挑戦を始めている。
昨秋、15年間籍を置いた北海道日本ハムから戦力外通告をうけた。
球団はこれまでの功績を称え、チームへの残留を持ちかけたが、「現役続行」を望む彼の決意は変わらなかった。
「僕も抑えをやっていた35歳(2014年)までは、抑えが出来なくなったら、現役を辞めようと考えていたんですよ。でも、36歳の時に、膝を手術してそこからですよね。考えを改めたのは……」
「正直『辞める』というのは簡単」
今から3年前になる2015年、武田は左右両膝にメスを入れた。
3月に左膝、半年後の8月には右膝にも。それまでは自分のためだけに野球をやって来たと話す武田だったが、2度に渡る手術そしてリハビリ期間を経て、それまでの自分にはなかった価値観が、沸々と湧いてきたという。
「その時期に色んな人の支えもあって、またマウンドに上がれるようになったわけですけど、そこで考え方が大きく変わったんですよ。
正直『辞める』というのは簡単だし、楽な選択だったと思います。でも、僕が投げ続けることが少しでも、そのとき支えてくれた人達への恩返しにもなるのかなって思いましたし、怪我をしてリハビリしている最中も、応援してくれたファンの人達が大勢いました。
今も体がボロボロと言っても、肩肘はまだまだ元気だし、だったら投げる姿を、もう少しみんなに見せられるんじゃないかって。だから僕もなんだか不思議な気分でしたよ。膝を怪我していなかったら正直、とっくに野球を辞めていたと思います」