サムライブルーの原材料BACK NUMBER
塩谷司はUAEで代表復帰に燃える。
「意志が強いとは思わない。でも」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYuki Suenaga
posted2018/07/13 11:30
いまも、センターバックとして海外でプレーする選手は数少ない。塩谷司の急浮上もおおいにありうるのだ。
広島で5年、何かを変える必要があった。
1年前の塩谷は、苦悩の淵にあった。
リオ五輪で力を発揮できず、チームはグループリーグで敗退。広島に戻ってきてからも調子が上がっていかなかった。2017年シーズン、サンフレッチェは勝利に見離されて下位に低迷した。苦悩はより深くなっていた。
当時の心境を尋ねると、彼はしばらく考え込んでから語り始めた。
「広島で5年やってきて、広島で現役を終えることも考えてはいました。ただ、成長が止まっているなと感じていて(チームも)勝てない。どんどん深みにはまっていくじゃないですけど、何かを変えなきゃいけないと思ったんです。
そんなときに移籍のオファーがあったんです。悩みましたけど、海外に行くことによって何かが変わるんじゃないか、自分の人生にプラスになるんじゃないかって」
周囲には引き留める声も多かった。有難かった。しかし今、決断しなければ「変わることなんてできない」と彼は思った。
今なら、自分の弱さを認めることができます。
外から眺めてみれば、意志の強いプレーヤーに思える。だが自己評価は、まったく逆だ。
彼は苦笑いを浮かべて言う。
「はっきり言って、意志の強い人間だとは思っていません。というのも、本当に意志の強い人たちを僕は見てきましたから。本当に強い人であれば、今の環境のなかで自分を変えられると思うんです。でも僕にはそれができないと思った。だから環境を変えることで、自分を変える力にしたかった。でも……」
でも?
彼は再び言葉をつむいだ。
「でも昔なら、意志が弱いと認めることもできなかったのかもしれません。ハッタリを言っていたかもしれません。でも今なら、認めることができます」
自分の弱さを見つめ、認め、克服しようとしてきた。その先にアルアインでの輝きがあった。
成長曲線は停滞の時期を終え、上昇に向かおうとしている。その実感を得ることでもできている。