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ウルグアイが誇る最強2トップ。
スアレス&カバーニの奇跡と結末。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/07/09 11:20
同い年のストライカー2人がともにワールドクラス。スアレスとカバーニの2トップに、ウルグアイの奥深さを感じる。
あまりに痛すぎたカバーニの負傷。
一度追いつかれた後、クリスティアーノ・ロナウドとポルトガルに引導を渡したのも、このダブルエースだ。ロドリゴ・ベンタンクールからの横パスを、中央のスアレスは外側を走るカバーニに一瞥もくれずにスルー。
そこに必ず走り込んでいると信じ、決勝点となるカバーニの鮮やかなコントロールショットを導き出している。
ポルトガル戦までの4試合で7得点・1失点。堅守速攻を絵に描いたようなウルグアイにあって、3ゴールのカバーニ、2ゴールのスアレスの決定力は絶対不可欠だった。
ところが、2本の矢の1本が折れる。
ポルトガル戦の終盤に左ふくらはぎを痛めて途中交代していたカバーニは、結局、準々決勝のフランス戦に間に合わなかった。
「300万人のウルグアイ国民が、エディ(カバーニ)の回復を待っている。僕自身もその1人だ」
神妙な表情でそう話していたスアレスだが、願いは通じなかった。
フランス戦、スアレスのシュートは0本。
頼れる相棒を失ったスアレスは、その相棒の分まで戦おうと覚悟を決めていたのだろう。フランス戦ではいつも以上に守備に走り、スプリントを重ねた。自らが囮となるオフ・ザ・ボールの動きで、とりわけ立ち上がりにはいくつかのチャンスも演出している。
しかし、彼が望むところにパスは出なかったし、彼が意図したスルーに反応する者もいなかった。代役を務めたクリスティアン・ストゥアニもよく戦った。けれど、誰もカバーニのようにはプレーできなかった。
数字は残酷だ。
フランス戦でスアレスが放ったシュートは0本。血の気の多いハンターは、ライフルを抱えたまま、結局一度も引き金を引けなかった。
「言い訳はしたくない。けれど、エディの不在は大きかった」
カバーニを1人欠いただけで、これほど攻撃力が低下するのだと改めて思い知らされたのだろう。後半、クリスティアン・ロドリゲスとフランスの神童キリアン・ムバッペの接触プレーをきっかけに両チームが乱闘寸前となる。
その時、スアレスが鬼の形相でいつまでも叫び続けたのは、上手く回らないチームへの苛立ちだけでなく、ムバッペのようなタレントが次々と湧いて出る大国への嫉妬心も、吐き出していたからに違いない。