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1発のシュートが雰囲気を変えた!
メッシ独占インタビュー秘話。
posted2018/06/13 18:00
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Takuya Sugiyama
「今のアルゼンチン代表、このグループは全員が最高の状態でロシアワールドカップに臨んで、最高のことを成し遂げたいと思っている。ワールドカップで優勝するという夢をみんなが持っているんだ」
『NumberPLUS ロシアW杯蹴球読本』(現在発売中)は、もうお読みいただいただろうか。出場32カ国の選手名鑑が掲載されているこの誌面の表紙と巻頭インタビューを飾っているのが、アルゼンチン代表の10番、あのリオネル・メッシだ。
この貴重なインタビューがバルセロナで行われたのは、4月下旬。タイミングはあまり良くなかった。メッシが今年の大きな目標として掲げていたチャンピオンズリーグの優勝が、悪夢のようなローマでの敗戦で潰えた数日後。
この日は、彼が契約する日本のアンファー社のCM撮影が行われ、その最後にインタビューを実施する約束になっていた。しかし当日は朝からスタジオ全体が緊張感に包まれていた。「あの敗戦以来、かなり気分が落ち込んでいる」という事前情報が伝えられていたからだ。
取材スタッフ全員が緊張状態の中で……。
最悪のことも想定された。過去に何度か、サッカープレイヤーのインタビューの予定をギリギリでキャンセルされたことがある。彼らにとって、撮影やインタビューは"仕事"ではない。本職で結果がでなかったとき、人前に出たくないという気持ちは理解できる。
もしかするとメッシも……だが彼は、予定の時間にやってきた。表情は硬い。スタジオ内には数十人のスタッフがいたが、全員が緊張状態に陥る。このままだとインタビューで本音を聞き出すのは難しいかもしれない。
キャンセルされることを思えばそれでもじゅうぶんだが、せっかくスペインまで来てあのメッシにインタビューできるのだ。少しは彼の内面に迫りたい。
その緊張状態が緩まり、メッシが笑顔を見せたのは、撮影がスタートして30分ほどたったときだった。いくつか用意された撮影のなかで、もっとも難しいと思われたシーン。PKよりも遠い位置から、10cmほどの小さなカメラに向かってボールを蹴る。
ボールを渡された瞬間、メッシの表情が少し変わった。まだ笑顔はない。たとえるなら、大好きなおもちゃを手にした子どものような顔。さあ、どうやって遊ぼうかと頭を巡らせているような表情に見えた。