球道雑記BACK NUMBER
プロ11年で一軍43登板の崖っぷち男。
ロッテの29歳・阿部和成が広島斬り。
posted2018/06/06 07:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
野球人生を賭けたマウンド――。
と、言ってもけっして大袈裟な表現ではなかっただろう。2018年6月3日、ZOZOマリンスタジアム。セ・リーグ首位の広島を相手に1勝1敗で迎えた3戦目。試合は序盤からの点の取り合いで、彼の出番は4回表、3-3の同点。なお1死満塁という窮地の場面で訪れた。
ブルペンを出る際、ピッチングコーチの清水直行が一言だけ声をかけた。
「1人ずつ、しっかりな」
「はい」
彼は小さく頷いた。グラウンドに出ると、三塁側のスタンドは相手のチームカラーで真っ赤に染まり、強い陽射しも重なって、まるで炎の中にぶちこまれたかのようにも感じた。
それでも、不思議と緊張感はちょうどいい具合で収まっていた。
「思いっきりいくしかないな」
心の中でそう呟くと、あとはストライクゾーン内で勝負することだけを意識して、目一杯、キャッチャーミットにめがけて投げ込んだ。
プロ11年間で一軍登板は43試合。
阿部和成、29歳。
昨年は2試合、一昨年は13試合、プロ11年間通算でも一軍登板は43試合しかない崖っぷちの右腕である。
今季も開幕一軍入りこそ果たしたものの、一度も登板機会を与えられないまま、4日後の4月2日に一軍登録を抹消。オープン戦期間も一軍帯同を続けたがわずか2試合の登板で終わり、“一軍半の中堅投手”としては気持ちを保ち続けるのが難しい状況にあった。
そんな彼に心のケアを施していたのが、今年から一軍ピッチングコーチとして加わった清水直行だった。
オープン戦では3月3日の北海道日本ハム戦から3月23日の中日戦まで20日間、登板機会が開いてしまったが、その間、清水は、小林雅英ピッチングコーチ、または井口資仁監督に、阿部の出番を何度か願い出るなど阿部の気持ちを代弁した。もちろん他の投手達の球数や、登板間隔なども頭に入れながらだ。