球道雑記BACK NUMBER
プロ11年で一軍43登板の崖っぷち男。
ロッテの29歳・阿部和成が広島斬り。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKyodo News
posted2018/06/06 07:00
阿部和成が試合の流れを引き寄せて、広島に勝ち越したロッテ。彼の野球人生はまだまだこれからなのだ。
「このまま出番が来ないんじゃないか」
このときベンチで見守っていた小林雅英ピッチングコーチも、きっと同じ気持ちだっただろう。昨年、小林コーチも阿部についてこんなふうに話したことがあった。
「ブルペンでは本当に良い球を投げていると思うんですけどね。あとは実戦でそれが出来るようになれば……それだけで随分変わって来ると思うんですけどね」
小林も、昨年まで清水と同じブルペン担当だった。
阿部が葛藤する姿を、小林も見続けている。清水と同じ想いでマウンドに送り出したに違いない。阿部もこれを意気に感じた。
4月にファームに降格して、再昇格までの2カ月間、阿部の心の奥で「このまま(一軍で)出番が来ないんじゃないか」という弱い気持ちが芽生えたこともあったという。
しかし、自分を支えてくれる家族や、周囲の人達、そして両コーチの期待に応えるためにも、「いつ出番が来ても良いようにやれることだけはやっておこう」と準備を怠ろうとはしなかった。
「自分は昨年で一度終わっている」
また今年からチームに導入されたトラックマンのデータも阿部の強い支えになった。
阿部が話す。
「球速と回転数の平均値ってあるんですけど、自分の場合、平均より回転数が極端に少なくてそこがコンプレックスに感じることがあったんです。でもある日、スタッフの方から、回転数が多くても、少なくても、平均より大きくずれていた方がバッターの体感が違って『あれっ?』って感じるから、その方が武器になるんだよと教えてもらって。そこからなんです。自分の真っ直ぐに自信が持てるようになったのは」
前述の広島戦。最初に対峙した菊池涼介にはカウント2-2からの7球目を外角低めに投げ込んで見逃し三振に抑えた。続く丸佳浩も137kmの変化球でファーストライナーに抑えて窮地を切り抜けると、チームの逆転勝利の強い引き金にもなった。
「自分は昨年で一度終わっている(戦力外になった)と思っていますから。だから開き直りじゃないですけど、今年もう1年チャンスをもらったと思えばね。あとは楽しむじゃないんですけど、失うものはないわけですから今、やれることをやろう、それだけを思っています」