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政治、音楽、そしてサッカーが融合!
世界一特別なクラブ、リバプールの謎。
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph byAlexis Reau/L'Equipe
posted2018/05/24 11:20
過去には乱暴なファンも多かったリバプールだが、現在はほとんどいなくなり、安心して観戦できるようになったそう。
ふたりの“カウボーイ”が危機を招いたが……。
ヘイゼルは今も地元でクラブについて語る際にはタブーであり、ヒルズボロは人々の記憶は曖昧になってきているものの、亡くなった人の数はヘイゼルを大きく上回った。
同時にリバプールは奇跡の実現者でありエクスタシーの体現者でもあった。
イスタンブールでの勝利(2005年、チャンピオンズリーグ決勝)は、まさにこのクラブが独自の伝説を築きあげる力を天から賦与されているようだった。
ふたりの“カウボーイ”、トム・ヒックスとジョージ・ジレット(以前の米国人オーナー)がクラブを破綻の危機に晒したが、救ったのは同じアメリカのスポーツベンチャー企業であった。
危機を回避できたのは、プレミアリーグや弁護士たちの力というよりも、サポーターたちの情熱と圧力だった。
選手と経営陣、そしてファンに情熱の共有を求める。
リバプールはクラブを支える人たちの相互作用を求める。
クラブの経営者といえどもそれは例外ではない。
ケニー・ダルグリッシュの場合がそうであり、ジェラール・ウリエやラファエル・ベニテスがそうであった。それは今日ではユルゲン・クロップやモハメド・サラーに受け継がれている。
そうしたすべては非合理的であるが、他の街や他のクラブでは、これほどの感情が身体の中を流れるのは考えられない。それは異なる状況においては、厚かましさであり狂信になりかねない。
リバプールを見る彼らの眼差しに、感傷が入り混じるのは否定できない。そしてリバプールの信奉者たちが、そのことに無意識的につけ込んでいることも……。