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政治、音楽、そしてサッカーが融合!
世界一特別なクラブ、リバプールの謎。
posted2018/05/24 11:20
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph by
Alexis Reau/L'Equipe
「リバプールFC」という名前には特別な響きがある。個人的には1970年代はじめの『サッカーマガジン』誌リバプールFC特集号の中での「シャンクリーが栄光を連れてきた」という言葉が、強く心に刻み込まれている。
流行でもなければスノビズムでもない。もちろん単なるノスタルジーでもない。この数十年というものリバプールは、サッカーとともに生きようとする世界中の人々を惹きつけてきた。
いったいリバプールの何が特別なのか。人々は何に魅せられるのか――。
『フランス・フットボール』誌4月24日号では、フィリップ・オクレール記者が2007年以来のチャンピオンズリーグ決勝に進んだリバプールへのオマージュを捧げている(雑誌のメイン特集としては、直前に迫った準決勝ローマ戦のプレビューなのだが)。
「マージーサイド(マージー川の河岸=アンフィールドロードのある場所)」の過去から現在をオクレール記者が紐解く。
監修:田村修一
レッズは「何か特別なもの」がある世界唯一のクラブ。
「彼は人々を幸福にする」
“コップ(アンフィールドのゴール裏スタンドの意/転じてリバプールファンの愛称)”の入り口前に建てられたビル・シャンクリーの彫像の台座に、この言葉は刻み込まれている。
リバプールにおけるモダンサッカーの祖となったシャンクリーの、それは信条でもあった。
「私の目的は人々を幸福にすることだ」
およそ半世紀を経て、ほとんど同じ言葉が別の人物から語られた。ユルゲン・クロップが、偉大なる先達監督である“シャンク(シャンクリーの愛称)”と同じ言葉を口にしたのは単なる偶然なのか、それとも何か必然的な理由があったのか――。
リバプールの絶対的な信奉者は、マージーサイドに住む人々だけに限らない。彼らにとってはアンフィールドで吸い込む空気には特別の香りがあり、クラブへの愛の共有であり伝播に他ならない。クロップはその幸福な伝染病の、最も直近の感染者に過ぎない。
もちろんリバプールだけが、そうした一体性を体現する唯一のクラブではない。インテルからリーベル・プレートまで、同様の求心力を持つクラブは世界に幾つも存在する。
ただ、“レッズ(リバプールFCの愛称)”が他と異なるのは、レッズこそは「何か特別なもの」を持つ世界で唯一のクラブであると信じられていることである。