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政治、音楽、そしてサッカーが融合!
世界一特別なクラブ、リバプールの謎。
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph byAlexis Reau/L'Equipe
posted2018/05/24 11:20
過去には乱暴なファンも多かったリバプールだが、現在はほとんどいなくなり、安心して観戦できるようになったそう。
リバプールの優勝、そしてビートルズ!
1960年代初頭にリバプールで起こったふたつの現象――ふたつの進化は決して偶発的に同時発生したのではない。それはシンクロニゼーションと呼べるものであった。
ひとつはシャンクリーによるリバプールのリーグ制覇('63~'64年シーズン)であり、もうひとつはその同じ年にジョン、ポール、ジョージ、リンゴという4人の若者が、“マージービート”を引っ提げて音楽で世界を変えたことだった。
驚くべきことにこの2年間、イギリスのヒットチャートで1位を占めたのは、ひとつの例外もなくすべて彼らの曲だった。
「スクースであること(リバプール方言を喋ること)」は若さを意味し、何の偏見も持たず陽気で反抗的であることを表していた。心情的には左寄りで、ナイーブでありながらリバプールの労働者階級の心性に深く根差した“ラディカリズム”でもあった。
政治、音楽、そしてサッカーがリバプールで融合!
イギリスの他の地域でも同じことが起こったとは考えにくい。
何故なら一般的なイギリスの労働者家族は、選挙では保守勢力(保守党)に投票し、そうすることで自らの社会的上昇と大英帝国への帰属意識、社会への帰属意識を確認していたからである。
ちなみに、リバプールから50kmほど離れたマンチェスターでは「赤(労働党のイメージカラー)」、つまり労働党への傾斜はより過激な形で起こった。
ところが、リバプールのそれはよりソフトで洗練されていた。
より軽快でもあり、直接的な闘争や憎悪よりも、「相手に敬意を払わないこと」で間接的に自分たちの強い意志を表現した。
現在と較べてまだ若々しかったこういった社会主義の動き、世界的な新しい政治の息吹の中で、最も大きな果実を実らせたのが……シャンクリーだった。
政治と音楽とサッカーの融合。
労働党の躍進と、ペニー・レインと、5つのヨーロッパチャンピオンのタイトル――これ以上の極上のカクテルがあるだろうか。