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内村航平、10連覇で途切れても。
「醜い姿でも代表で」と言える強さ。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2018/05/01 16:30
表彰式後、史上最年少の19歳2カ月で優勝した谷川翔、3連覇を果たした村上茉愛らとともに自撮りで記念撮影する内村。
心も体もロボットみたいになって。
3月に出た種目別ワールドカップ(カタール・ドーハ)ではゆかと平行棒を除く4種目に出たが、すべて予選落ち。跳馬では恐怖心が勝り、予定していた「ヨー2(Dスコア5.6)」は練習すらできなかった。難度を下げて「シューフェルト(Dスコア5.2)」を跳ぶしかなかった。
「何をしにきたんだか。自分でも分からない。笑うしかない」
自嘲気味にそう言った。だが、帰国してみると、気づいたことがあった。同大会にはオクサナ・チュソビチナ(ウズベキスタン)も出場していた。五輪に7度出場し、45歳で迎える東京五輪を目指している女子体操のレジェンドだ。
「チュソビチナさんは『気持ちさえ保っていれば、何歳でもできる』と言っていて、確かにそうだな、と思った。でも人間だから気持ちの上げ下げはある。それなら僕は心も体もロボットみたいになって練習するしかない」
新しい自分を見せたい、初めての感覚。
こうして迎えた全日本選手権。個人総合としては復帰戦となる今大会を前に、内村は意気込みをこのように語っていた。
「ずっと連覇する姿を見せてきたけれど、世界選手権でそれが途切れて一度、自分が死んだような感じがあった。新しい自分を見せていきたいという感覚は、今回が初めてかもしれない。リオ五輪に浸っていた自分がようやくいなくなった」
4月27日の予選では、ドーハ・ワールドカップで落下したあん馬と、手放し技でバーに近づきすぎた鉄棒で同じミスが出てしまい、5位発進と大きく出遅れた。
「ここから逆転するには、リオ五輪以上のミラクルが必要ですね」
内村はオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)に大逆転勝利を収めた名シーンをたとえに出しながら、「勝つことにこだわるのも大事ですが、やっぱり世界に出て戦わなければいけない。 その舞台にどうやったら立てるかをもう一度見つめ直して臨みたい」と、実を取ることへ気持ちを向けた。