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内村航平、10連覇で途切れても。
「醜い姿でも代表で」と言える強さ。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2018/05/01 16:30
表彰式後、史上最年少の19歳2カ月で優勝した谷川翔、3連覇を果たした村上茉愛らとともに自撮りで記念撮影する内村。
内村以外の5人が大学生という顔ぶれ。
中1日空けて迎えた4月29日の決勝。予選の上位6人で構成される1組には白井、谷川翔、萱和磨、谷川航、千葉健太(すべて順大)が入り、実に内村以外の5人が大学生という顔ぶれだった。
試合が始まると、29歳は自分の演技に集中した。最初の種目であるゆかでは、彼本来の吸い付くような着地ではないものの、「恐怖心はもうなかった。見ている人ももう大丈夫と思ったでしょう」(内村)という躍動感のある動きを見せた。
2種目めのあん馬ではワールドカップと予選で続けて落下した「ウーゴニアン(馬端から馬端まで下向き720度転向移動)」を成功。これで波に乗ると、3種目めのつり輪では力技をかっちりと決め、鬼門の跳馬では「シューフェルト」を無難に成功させた。
5種目めの平行棒で倒立の左手が前へ“歩いて”しまったのはもったいなかったが、それ以外は完璧に近く、14.500点。最後の鉄棒では最近続いていたバーに近づきすぎる不安を大幅に解消し、全体のトップである14.733点を出した。
あらためて見せつけた「美しさ」。
平行棒では「もったいない」とつぶやき、鉄棒では着地で右足が半歩動いたことにしかめっ面を見せたが、終わってみれば6種目の合計は86.566点。決勝だけなら全体の最高点で、予選の5位から3位まで順位を上げた。演技内容にはキレや高さ、スピード感の面で大きく復調している様子がうかがえた。
そして、あらためて見せつけたのが「美しさ」である。採点基準の変更により、誰もが美しく正確な演技実施への意識を高めている中にあっても、膝割れやつま先の緩みがここまでない選手は、やはり内村しかいない。
内村が19歳で初制覇した'08年11月の全日本選手権は、4連覇中だった冨田洋之が北京五輪後の調整不足で欠場していた。それから10年。今大会を迎えるにあたって、内村は白井や谷川航らの練習ぶりを見ながら「その時点で(負けてもいいと)認めていたのかもしれません」と語っていた。王者にふさわしい演技をする者がいるならいつでも負けて悔いなしという覚悟があった。