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バルサから3点差逆転勝ち。あの夜、
ローマが起こした本当の奇跡とは。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/04/18 07:00
チャンピオンズリーグ63年の歴史上で、バルセロナが第1戦で3点差をつけて、第2戦で逆転されたのは初めてのことだった。
イタリア中がSNSで「バルサを倒せ!!」
CL準々決勝での大逆転劇は、カルチョ史に残る名試合になった。
しかし、4月10日の夜、ローマが起こした本当の奇跡とは、その戦いぶりによってイタリア中を1つに束ねたことだった。
実際のところ、1-4とされていたローマの逆転を心底信じていた人間の数は多くなかった。圧倒的少数派だったといっていい。
それでも、初戦で貴重なアウェーゴールを奪ったFWジェコは2戦目でも序盤からすぐにトップフォームにあることを示し、守備陣と中盤はバルサ相手にラインを高く上げ、覚悟を決めて勝負をしかけた。
実績でも売上高でも遠く及ばないバルサに気迫で対抗した、その夜のローマの戦いぶりはイタリア人の心を揺さぶった。
初戦で痛恨のオウンゴールを献上したベテランの主将デロッシが、2点目となるPKを決め、なお鬼の形相でピッチを走る。
SNS上に奇妙な投稿が出現し始めた。そして似たような内容の投稿は、怒涛の勢いで増えていった。
“……こりゃスゴい試合だ。俺はユベンティーノだが、今夜はローマを応援する。フォルツァ・ローマ!”
“生まれてこのかたインテリスタだが、この試合だけはローマを応援させてくれ。今夜のお前らなら追いつける!”
“Daje(いけーっ)! バルサを倒せ!!”
北はトリノから南はシチリアまで、ツイッターやインスタ、フェイスブック等あらゆるSNS上の声援がオリンピコで戦うローマ目掛けて降り注いだ。
南部と北部で仲が悪いお国柄での奇跡。
ローマを後押しするWeb上の潮流は、DFマノラスが3点目を入れた後も止まらず、アディショナルタイムを含む19分間、GKアリソンと守備陣の背中を支え続けた。あの晩のバルセロナはイタリア国民6000万人の魂も敵に回していた。
イタリア人が日頃抱えるライバル感情や狭い郷土意識は本当に強固で根強い。欧州カップ戦で南伊のクラブが奮闘していても、北部の町では毒づいたり敗退を願ったりする。
だから、日頃抱えている心の垣根を消し飛ばしたローマの戦いぶりは、それだけでも“奇跡”と呼ぶにふさわしい、カルチョの歴史上とびきりの事件だった。
「ロマニスタにとっても、イタリア人にとっても特別な夜だった。多くのセリエAクラブが試合後、ローマへお祝いのメールを送ってくれたと聞いた。とても素晴らしいことだ」(MFストロートマン)