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バルサから3点差逆転勝ち。あの夜、
ローマが起こした本当の奇跡とは。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/04/18 07:00
チャンピオンズリーグ63年の歴史上で、バルセロナが第1戦で3点差をつけて、第2戦で逆転されたのは初めてのことだった。
会長はローマ広場の噴水にドボン。
数千人が集まったポポロ広場には、パロッタ会長がスタジアムからシャツ1枚のラフな格好で駆けつけた。
3月に60歳になったばかりの会長は、御法度であることを承知の上で広場の噴水目がけて迷わずドボン。10歳の少年の笑顔の会長に、周囲はやんやの大喝采だ。
何十億円も投資してクラブを買い取り、地元との軋轢や艱難辛苦を耐え忍んでまで追い求めてきたのは、歴史に残る一大勝利を挙げたこんな夜のためだ。
ずぶ濡れ上等、会長は腹の底から叫んだ。
「罰金? 喜んで払ってやるぞー!」
株価は20%急騰、バスの表示は「3-0」。
夜が明け、まだ天にも昇る心地の会長はローマ市長の下に出向くと本当に罰金450ユーロを払った上に、世界遺産「パンテオン」の噴水修繕費用として23万ユーロもの豪気な寄付まで申し出た。
調子にのったパロッタ会長は、一家揃ってラツィオ・ファンである美人市長ラッジ女史に子供の年齢を尋ね、「まだ8歳? なら、まだ小さいからロマニスタへ“改宗”させてはどうですかな(笑)」と薦めたほど。
上場しているローマのクラブ株価も20%急騰を記録し、上機嫌この上ない。
ローマ市内の小学生たちはまるで示し合わせたかのように、こぞってクラブカラーのジャッロロッソ(黄・赤)色の服で登校し、ローマ市内を走るバスの行先表示パネルは「Grazie Roma」「3-0」に。観光客はさぞ面食らっただろうが、ここまで徹底してお祝いされたらもう苦笑いするしかない。
ローマ市内のバールでは、杖を片手にした古参のロマニスタたちが涙まじりに語っていた。
「34年前の準優勝以来、あんなすごい試合を死ぬまでに再び見られるとは思わなんだ」