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平昌のライバル対決を見て思い出す。
シンクロ井村雅代HC「敵を愛せよ」。
posted2018/03/05 07:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Naoya Sanuki/JMPA
2月25日に閉幕した平昌五輪では、さまざまな競技で数々の好勝負があった。
その中で印象的だったのは、試合後の選手たちのふるまい、言葉だった。
ノルディック複合の個人ノーマルヒルで、渡部暁斗は銀メダルを獲得した。ソチ五輪でも金メダルをかけて争ったエリック・フレンツェル(ドイツ)と競り合い、最後、突き放されての2位だった。
「僕は楽しかったですね。ほかの誰かと戦うよりもフレンツェルと戦うほうが面白いと言ったらあれですけど」
フレンツェルの、駆け引きにおけるフェアな姿勢を尊敬しているとも語った。
スノーボード・ハーフパイプでは、ショーン・ホワイト(アメリカ)と平野歩夢の間で、かつてないハイレベルでの勝負が繰り広げられた。まぎれもなく、新たな次元へと引き上げた試合だった。
金メダルを手にしたホワイトは言った。
「彼(平野)を本当に尊敬しています。彼がいたから、自分も挑戦できました」
平野、本橋が試合後に語った言葉。
一方、銀メダルの平野は、逆転されることになった最後のホワイトの滑りを見ているときの心境をこう明かしている。
「こけてほしいとか、そういう願いはなかった。あそこで、あの状況で決めてくるのは、本当に素晴らしいと思いました」
その2人は、セレモニーで互いを称えあった。
カーリング女子日本代表は、準決勝の韓国戦で粘り強く戦い、エキストラエンドへと勝負を持ち込んだ。そして相手に最大限プレッシャーをかけるお膳立てをし、勝負の行方は韓国のスキップ、金恩貞(キム・ウンジョン)の最後の一投に委ねられた。
厳しい局面にもかかわらず、金は完璧なドローショットを決め、日本は7-8と敗れた。
本橋麻里は、大会を通じて心に残るシーンとして、この場面を挙げた。
「やられたという気持ちと、感動を覚えた瞬間です。悔しいんですけど、やはりすごかったという気持ちが強いです。ああいう素晴らしいショットができるチームになっていかなければいけないという気持ちでいます」
今挙げた選手たちの言葉は共通している。どうしても勝ちたいと思って臨み、敗れたあとに残るものは、敵意といった感情ではなく、相手を称える気持ちだ。女子スピードスケート500m後の小平奈緒と李相花(イ・サンファ)の間にあったものも同様だろう。