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箱根駅伝で210人中58人がナイキ。
メーカー契約が勢力図を変える日も?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2018/01/14 08:00
全員がナイキに身を包んで戦い、箱根駅伝2位に入った東洋大。その足元を巡る戦いも、非常に熱い。
“SHOE DOG”で描かれたアメリカの大学スポーツ事情。
“SHOE DOG”
東洋経済新報社から発売されているナイキの創業者、フィル・ナイトの自伝である。
この本はビジネス書というよりも、アメリカで一定のマーケットを誇る「伝記本」の傑作であり、創業者の生い立ち、ナイキの勃興、そして成功を収めてからの数々の戦いが収められている。
中でも銀行との折衝、ライバル会社のロビー活動によって、アメリカ政府と対峙するところなど、劇画のような展開が繰り広げられていくが、日本の総合商社が大きな役割を果たしていたことにも驚く。
また、アメリカのカレッジ・スポーツ・ファンとしては、ナイキがいかにして大学に食い込んでいったかの描写が極めて興味深かった。
ナイキは1977年にナイトの母校であるオレゴン大学と契約を交わすことに成功するが、その後、ソニー・ヴァッカーロという人物を雇い入れ、バスケットの名門校の攻略に乗り出す。なおヴァッカーロについては、日本でもESPNが制作したドキュメンタリーが放送された。後に彼はナイキを裏切ることになる。
当時のアメリカの大学バスケット界はアディダスとコンバースの天下だったが、ヴァッカーロは独自の人脈を生かし、名門校との契約を勝ち取っていく。
進学は自分の好きなメーカーと契約している大学に。
アメリカでは、メーカーと学校の契約が大きなニュースになる。最近でいうと、2016年にはミシガン大学がナイキの「エア・ジョーダン」のブランドを使えるようになったことで話題になった(エア・ジョーダンのロゴが使える選手、学校は限られている)。
そしてここが肝心なのだが、有望な選手は高校の時点で、キャンプに参加するなどメーカーとの結びつきを持ち、自分が好きなメーカーと契約している大学に進む傾向が強いのだ。
2018年時点で、名門校と呼ばれるノースカロライナ大、デューク大、そして八村塁がプレーするゴンザガ大などは「ナイキ・スクール」だ。有力カンファレンスの学校に関してはナイキ、アディダス、アンダーアーマーの3強が占めており、激しい競争が続いている。