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深夜、モスクワからの国際電話。
カズさんが話したかったこと。
text by
瀬尾泰信(Number編集部)Yasunobu Seo
photograph byKazuyoshi Miura
posted2018/01/04 07:00
ドログバ、ロナウジーニョ、プジョル、セードルフら……FIFAレジェンドたちと共に食事を。日本人選手でここまで世界と渡り合える選手は、そうはいない。
カメラマン十数人を引き連れて、ついに空港に登場!
成田空港国際線第1ターミナル。到着ロビーにいる「出待ち」のファンを一番最初に沸かせたのは、カズさん……ではなかった。
同便で帰国した、ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表監督だった。
大柄なハリルホジッチ監督は、サインを求める人の列にゆっくりと近づいていくと、試合の時にベンチで見せる激昂ぶりとは似ても似つかない柔和な表情でペンを走らせていた。おそらくだが、決まった対戦の組み合わせにポジティブな思いを抱いているのだろう。
その瞬間、セキネさんから、スマホにメッセージが入った。
「迎えの車が停まっているところで、待っててください」
それから10分ほどして、カズさんがターミナルから出てきた。黄色のニットキャップに赤いパーカー、黒いダウンベスト。カズ番の記者、カメラマンを十数人引き連れて車に近づいてくる。
次々にぶつけられる質問に、時折立ち止まって答える囲み取材をこなしながら、こちらに近づいてくる。荷物の積み込みを手伝っていると、後部座席に座るようセキネさんに促された。
隣の席のカズさんは、動き出した車の窓を開けて報道陣に軽く手を上げると、シートに深くもたれかかり、背筋を伸ばした。
モスクワで感じたこと、どうしても伝えたかったこと。
さて、まずは雑談から入ろうかな──。
ありきたりだけど寒そうだったから、モスクワの天気の話とかから入ろうか。
ポケットのICレコーダーに手をかけようと思った瞬間……。
「昨日の今日でここまで来てもらっちゃってごめんなさいね。モスクワですごくいろんなことを感じて、伝えたいなと思うことができてね。
でも帰国して10日も経ったらこの感情も薄れちゃうから、熱いうちに、盛り上がっているうちに話しておきたくなった。こんな気持ちになることなかなかないから、関根さんに相談したら『それはサッカー雑誌がいいんじゃないか』って(笑)。でも僕は『やっぱりNumberがいいよ』って言ってね」
真顔でそう話すカズさん。でもその目の奥は笑っていて、助手席ではセキネさんがニヤニヤしている。
そうそう、この空気感。久しぶりのハコ乗りで取材者が前のめりになっているのが思い切りバレてしまっていて、カズさんは、それをうまくほぐそうとしてくれていた。このつかみもきっと、飛行機の中で準備してくれていたはずだ。
ありがたい。こういうときは、流れに任せよう。
ICレコーダーのマイクを、ゆっくりとカズさんに向けた。