野球のぼせもんBACK NUMBER
年俸大幅増も上林誠知は笑わない。
イチローと内川聖一から学ぶこと。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2017/12/06 11:00
仙台育英高からプロ入りして4年目の上林は22歳。大谷翔平の1歳下で、松井裕樹、田口麗斗、森友哉らと同い歳。
「僕の中では4:6で反省が多かったですけどね」
日本シリーズでも出場したのは代打での1試合だけ。しかも、三振に倒れた。
それでも11月には稲葉篤紀監督が率いる侍ジャパンの一員となった。24歳以下など条件付きではあったが、稲葉監督からは「上林と心中する」という言葉まで飛び出し、アジアプロ野球チャンピオンシップでは全3試合で5番打者を任された。16日の韓国戦、延長10回裏に放った起死回生の同点3ランは、日本の野球ファンを大いに沸かせた。
「でも、他の打席では全然結果は残せなかったので、自信になった部分もあったけど満足はしていません」
とにかく収穫も、反省もたくさんあった、野球人生で一番濃い1年だった。
「僕の中では4:6で反省が多かったですけどね」
1月には例年どおり内川聖一とともに自主トレを行う。カープの鈴木誠也もまた参加予定だ。「記憶よりも記録にこだわりたい」と話す上林にとって、内川は日本一の打者だ。
「日本一の人に教わるのが手っ取り早いでしょ」
上林の打撃は独特だ。一般的には腰の回転の後に腕が出てくるイメージだが、全くの逆。それを内川に教わってから飛距離が伸びたという。鈴木も同じ理論で打撃をしているそうだ。
内川は上林に、あえて何も助言をしなかった。
内川はシーズン中の遠征先では上林を頻繁に焼肉に誘うなどして面倒を見ていた。2人とも下戸なので、相手としてちょうどよかったのかもしれない。果たして、どのようなアドバイスを送っていたのかと、内川に訊ねたことがある。しかし、その答えは意外なものだった。
「特に、何も言っていないですよ。僕の言葉で先入観を持たせてしまうのは良くないと思う。1年間戦う。その苦労は、自分で感じ取るもの。孤独な戦いを乗り越えて、みんなレギュラーになっていく。いつまでも誰かの世話になっていては、大きな壁を乗り越えていくことはできない。アイツもいつかは独立しなきゃいけない。自分で乗り越えていくものだから」
内川の言葉から察すれば、まだ“弟子入り”をしているうちは、本当の一人前ではないのかもしれない。このオフ、上林は球団寮を出た。規定では高卒5年間は寮生活を送ることになっていたが、1年前倒しでひとり暮らしを認めてもらえた。
来シーズンは、真価が問われる1年になる。来年の今頃には、堂々と胸を張って、「今度の自主トレは、独立して……」と頼もしく話している上林であってほしいと願う。