野球善哉BACK NUMBER
大阪桐蔭最強世代の中心は変り種。
あらゆる意味でマルチな男・根尾昂。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2017/11/17 07:00
史上最強世代とも言われる大阪桐蔭の中心、根尾昂。最も野球的に見える場所に、野球的でない選手が登場したことも興味深い。
根尾もまた、最近流行りの文武両道アスリートである。
そして、もうひとつ、彼を支えているのが物事を冷静に見つめる力だ。
インタビューでの理路整然とした言葉の並べ方は、高校球児の中では突出している。履正社の安田尚憲の語り口が知的で、日本史など勉強に力を入れてきたことで「考える力」が養われているからと書いたこともあるが、根尾も同じタイプといえる。
根尾も学力優秀で、中学時代はオール5。ご両親がともに医者で、兄は大学の医学部に通い、姉も看護師だ。
根尾は小学生時代からの日々をこう振り返る。
「特に勉強をしろと言われたわけではありませんが、勉強をするのが当たり前というか。小学校の生徒数が少なかったので、友達同士お互いを意識できて、負けたくない気持ちがありました。先生は個別授業に近い形で教えてくださっていたので、濃密な勉強ができていたと思います」
根尾の勉強法は、しっかりと授業を聞くことだ。先生を「自分の知らないことを教えてくれる存在」としてリスペクトし、どんな言葉も聞き漏らさない。授業が終われば、その日には何を学んだのかをノートに整理する。「中学時代はオール5を目指していたわけではなく、どの教科でも手を抜かないという意識を持っていた」と根尾はいう。
短い勉強時間は、逆に集中力の向上をもたらした。
大阪桐蔭に入学してからは練習時間が長い分、多くの時間は取れなくなったとはいえ、学校、グラウンド、寮の間の移動時間や就寝前の30分などを使って、今でも勉強は欠かさない。
根尾はそうした短時間の勉強から、中学時代までと違う効果を感じているという。
「いま、勉強は30分くらいしかできていないんですけど、そのおかげもあって集中力が高まっているように感じます。30分くらいの勉強をするのと同じように練習に励んでいるので、時間が過ぎるのが早く感じるようになってきました。
僕にとって知らなかったことを知ることができる、できなかったことができていくことが嬉しいです。得意なことは勉強の教科にしても、野球にしても伸ばした方がいいと思って取り組みます。どうしても分からない所がある時も、理解できる努力をして(苦手を)消していくことが大事なのかなと思います」
マルチな才能があるのは、彼のこれまでのルーツ、すべてが支えている。他の競技の力を生かし、勉強で培った物事を見つめる力、そして集中力を野球の中にも生かしていく。野球界には彼のような成長過程を踏んだケースはそうないだろう。