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“気配りの人”新井貴浩の今季総括。
「最後まで諦めず戦う姿を……」
text by
川村由莉子(Number編集部)Yuriko Kawamura
photograph byYuki Suenaga
posted2017/11/14 16:30
自らに厳しく他人に優しい新井の生き方が、“カープらしさ”の色をより濃くしている。
黒田博樹「ボロボロになるまでファンのために戦え」
若きチームメイトたちを見守る温かい眼差し。
もちろんCSでもそれは同様だった。シリーズ中、苦しんでいたように見えた選手には「惜しかったな」と声をかけるなど、ちょっとしたコミュニケーションを欠かさなかった。
チーム愛と同じく、繰り返し新井の口から出てきたのは「ファンに喜んでもらいたい」という言葉、スタンドへのただひたすらに一途な想いだった。
「ボロボロになるまでファンのために戦え」
黒田博樹が言い残したその言葉が今、新井の中でより一層のリアリティをもって頭の中を駆け巡っているように見えた。
当たり前のように、あらゆる人に気配りをする人。
取材中、こんな一幕があった。
「アイスティー、ここにありますよ! 飲んでください、レモンもあるから、はい」
初対面の新井の話を一言一句聞き漏らさぬようにと、緊張と遠慮も相まって、飲み物に手を伸ばさずにいた“ルーキー”コンビの弊誌編集者とカメラマンに、自らの話を折って飲み物を勧めたのだ。新井の一言が我々の気持ちをふわりと軽くさせた。
これか、と思った。
人の気持ちの根っこに気がつき、そこに優しく問いかける言葉。さりげないけれど誰もが実は必要としている気配り。日常的にチームメイトやスタッフを気遣い、見守っているからこそ、おそらく無意識に、グラスが汗をかき始めたアイスティーにまで新井の目は行き届いたのだろう。
理屈ではなく、体感として、彼がチームメイト、ファンはじめ多くの人々から信頼され、愛される所以をここに見た気がした。
60分のインタビューで我々に刻み込まれたイメージは、まぎれもなく、「若者を愛し応援する新井さん」そのものであった。