4人の恩師は「特殊球」と表現していた！

　しかし、その最大の武器も昨年の夏場から打者に見切られるようになり、苦しいマウンドが続いた。

「不調の一番の理由は、疲労からしっかり膝元に投げ切れていなかったこと。三振を取りにいっても見切られる。その時『あ、俺、投げる球ないな』って思いました。ツーシームって振ってくれると投球がすごく楽になるんですけど、やっぱり、真っ直ぐがあってこそのツーシームなんです。そのことを思い出してから修正ができました」

　4人の恩師・亜大の生田勉監督にも、あのボールについて聞いてみた。

「“亜細亜ボール”は初耳ですが、うちの大学ではナオが使っていたツーシームも含め、『特殊球』と呼んでいます。真っ直ぐと同じように、手首が立った状態で投げられる縦変化のボールです。野茂英雄さんがMLBで成功したのは、真っ直ぐとフォークの手首の使い方が同じだから、ということを聞いてヒントにしました」

　ト、ト、トクシュキュウ……？

　東浜が使い、3人の後輩に伝えたツーシームは、亜大では「特殊球」と呼ばれるものだった。ならば、このボールの定義は？

「理想は『バットに当たらないボール』ですね。160kmの真っ直ぐは投げられないけど、工夫してバットの幅最大6.6cmに当てさせないことはできる。困ったときに助けてくれる必殺技でしょう」

東浜のおかげで後輩にも好循環が生まれた。

　今でも亜大の学生はこの「特殊球」を投げているというが、4人に匹敵するボールを投げる投手はなかなか現れない。

「すべては東浜だったと思います。彼は僕の指導者人生の中でも特別な存在でした。彼のおかげで後輩たちにも良い循環が生まれたし、僕にとって恩人とも言えますよ」

　生田は、東浜にベタ惚れだった。沖縄尚学高1年のときから沖縄に100回以上足を運び、「沖縄に女がいるんじゃないか」とあらぬ噂を立てられても「僕の彼女は東浜です。絶対にものにします！」と宣言して沖縄に通い続けた。東浜はその熱意に動かされ、亜大へと進学した。

　不良の道を断ち「後悔したくないから厳しい環境で」と飛び込んできた九里を、生田は無茶苦茶に怒った。その一方で、一緒に風呂に入り、家に父親がいなかった九里に対して、本当の父のように接している。

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