プレミアリーグの時間BACK NUMBER
2000億円が動いたプレミア移籍市場。
補強査定すると勝ち組、負け組は?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2017/09/09 11:30
エバートンから加入し、さっそくゴールを決めたルカク。そのフィジカルは前線の起点役として最適だ。
昨季王者チェルシーはコンテ監督の希望が……。
ドリンクウォーターをエンゴロ・カンテを上回る移籍金で購入したチェルシーは、負け組の一員だ。ルカク獲得競争に出遅れて始まり、ジョレンテにそっぽを向かれて終わった今夏の移籍市場で、フロントに対するアントニオ・コンテ監督の不信と不満は全く収まっていない。当初は補強の必要性を強調していた指揮官の発言は、移籍市場終盤になると、諦めとも受け取れる「自分は(全権を持つ)マネージャーではなく手元の選手を指導するコーチだから」へと変わっていた。
とはいえチェルシーは、リーグ2位の移籍金総額で即戦力5名を買い入れてはいる。問題視された右ウィングバックにも、市場最終日にダビデ・ザッパコスタ加入(前トリノ)という手が打たれた。
だがザッパコスタは、コンテの第1希望ではない。1つランクの下がった選手の獲得は今夏4例目だ。希望通りの選手獲得はセンターハーフのティムエ・バカヨコ(前モナコ)のみという見方が大半だ。しかもクラブは、指揮官が戦力外扱いにしたジエゴ・コスタを放出することもできなかった。昨季優勝の立役者であるコンテに辞任の可能性がつきまとうようでは、今季優勝の有力候補と見ることは難しい。
純粋な補強失敗という観点で挙げるべきはニューカッスルだろう。相変わらず財布の紐が固く、2部王者となった昨季から戦力横ばいで、監督のラファエル・ベニテスが次の任地を探し始めたとさえ言われる。
サンチェスを売りさばけなかったアーセナルは……。
ただ、今夏最大の敗者はアーセナルだ。
メディアで「支離滅裂」や「自暴自棄」などと表現された移籍市場は悲惨だった。今季はトップ6さえ怪しいとの声も聞こえ始めた。実際には、最も心配されていたアレクシス・サンチェスの流出を避け、課題とされたFWとDFの獲得を実現した上に移籍市場で利益まで出したと主張することもできる。
だが、そう訴えてみたところで「ナンセンス」の一言で片付けられてしまうのが落ちだ。サンチェスは残りたくて残ったわけでもなければ、クラブが頑なに放出を拒んだ末の残留でもない。市場閉幕間際にマンCとの間で商談が進み、当人は合流していたチリ代表で祝福の拍手を受けたという。ところが結末は、移籍不可。
その原因は、代役となるはずだったトマス・レマー(前モナコ)の移籍拒否にある。サンチェスは、かつてないほどアーセナルに幻滅して代表から戻ってきたに違いない。エースのモチベーションが疑わしいチームで、新FWアレクサンドル・ラカゼット(前リヨン)が背負うプレッシャーは増す一方だ。