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夢の実現を3年繰り上げた多田修平。
走りまくって世界のメダリストに。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2017/08/18 11:30
多田修平は、頬をふくらませてスタートに備える。笑った顔とのギャップも含め、また多くの人の心をつかんだに違いない。
多田は最初にコールされ、会場に会釈。
しかし、多田の集中は乱れることはなかった。レースを前に、世界中にチーム紹介の映像が流れる。9レーンの多田はいちばん最初にコールされ、いかにも日本人といった感じで会釈をした。
決勝では、9レーンからスタートしたことが多田に幸いした。
「予選よりもスタートがだいぶ決まって、中盤もいい加速に乗れました。ベストな走りができ、飯塚さんに渡せたので良かったです。僕はやっぱり直線の方が好きなので、予選で走った5レーンよりも、9レーンはカーブも緩やかなので走りやすかったです」
多田は好位置で飯塚にバトンを渡す。流れがいい。そして飯塚から桐生のバトンパスもスムースで日本は上位争いを演じていたが、イギリスが先頭争いをしていることもあり、スタジアムには地鳴りのような歓声が沸き起こった。
イギリスとアメリカが先頭を争い、そしてジャマイカが続く。アンカーの藤光は目視では4番目にバトンをもらったが、ジャマイカのボルトにアクシデントが発生し、3位でフィニッシュする。藤光が立派だったのは、後続の中国に差を詰めさせなかったことだ。
第2コーナーで飯塚にバトンを渡した多田は、大きな歓声を耳にしながら藤光が3番目でゴールするのをトラックの反対側から見ていた。
「去年のオリンピックの時、日本が銀メダルを取ったのを見て『東京オリンピックまでには自分も』と思っていましたが、まさか今年それが実現するとは思っていませんでした」
多田はジョグで仲間のところに戻り、喜びを分かち合った。
山縣、ケンブリッジ、サニブラウンを欠いての3位。
リオデジャネイロ・オリンピックでの銀。そして今回、ロンドンで銅メダルを獲得した日本は、4×100mリレーでメダルの常連国に手をかけつつある。
アンカーを務めた藤光が「カードが2枚変わってもこの結果なので、すごい層の厚さを証明できたと思います」と話すように、去年のオリンピックから山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥、さらには200mで決勝に進んだサニブラウン・アブデルハキームがいない状態での銅メダルは価値がある。
特に、多田の台頭が日本チームにとっては大きな財産となった。滑らかなスタートを見せる山縣のスタートは日本の武器だったが、爆発力のある多田が登場したことがメダルを引き寄せた。
代役が世界レベルの仕事ができるのが、今の日本の強みなのだ。