猛牛のささやきBACK NUMBER
オリの若手投手が伸びる陰にこの男。
「勝己さんだとフォークが落ちる」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2017/06/30 07:00
一軍こそがプロ野球の晴れ舞台である。しかし陰で支える山崎勝己のような人間がいなければ、その輝きは続かないのだ。
年俸66%ダウン提示にも迷わずサイン。
昨年8月、こんな光景を目にした。当時、ファームでまだ1勝も挙げられず苦しんでいた吉田凌に、山崎が声をかけた。
「次、いつ投げんの?」
「名古屋の3戦目です。お願いします、勝己さん。自分まだ0勝なんで」
「え? お前まだ勝ってないん? 抑えてるのにな。わかった」
その後、9月のウエスタン・リーグで吉田は山崎とのバッテリーで2勝を挙げた。
昨年の一軍出場は43試合に終わったが、後半はそうやってファームの若手に自信を与えるなど、個人成績には表れない部分でチームに貢献していた。
しかし昨年オフ、球団からは年俸の減額制限を超える66%の大幅なダウン提示を受けた。それでも、他球団への移籍や、他の道に進むことはまったく考えなかったと言う。
「契約してもらえるなら、と思いました。やっぱり一軍で出てなんぼの世界ですから、ファームでなんぼやっても、給料はもらえないと思います。それが実際の評価だから、しょうがない。招いたのは自分だから」
今年は一軍と二軍を行ったり来たりのシーズンとなっているが、どちらにいても、ベテラン捕手は献身的にチームを支えている。
山崎が言うように、プロである以上、一軍で結果を残すことが求められる仕事であり、選手自身が目指すところでもある。ただ、ファームにいる間も、チームの未来を背負う若手にせっせと肥やしを与え続けるベテランの姿にも、たまにはスポットライトが当たってもいい。